■ 怒られちゃった
室井が切れ携帯電話を呆然と見つめていたので、一倉は首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「……怒られた」
あまりにも短い返事に、仕方が無いので質問を重ねる。
「誰に?」
「青島に」
「青島?珍しいな…何だってまた」
捜査絡み以外で青島が室井に対して怒りを露わにしている姿は、あまり見かけない。
だから青島が怒って電話を切ったということが、一倉には不思議だった。
「何を言ったんだ?お前」
「今日の約束が事件でダメになったことだ」
一倉は怪訝そうな表情を浮かべる。
青島だって刑事だ。
事件が起こればどうにもならないことなど分かりきっているだろう。
この二人の場合ドタキャンなんてしょっちゅうで、お互いその辺りは諦めているはずだ。
少なくとも一倉は、そのことが原因で二人がケンカをしている姿を見たことがなかった。
「ますます珍しいな。青島の虫の居所でも悪かったのか?」
室井は緩く首を振る。
「……事件が立て込んでいるという話をしたら、あまり無理をするなと言われた。飯はちゃんと食っているのか、ちゃんと寝てるのかって心配してくれてな」
いきなり惚気られて一倉の眉が釣りあがる。
怒られたんじゃないのかと一倉が思っていると、室井は困った顔で一倉を見た。
「いつもと逆の立場だったもんで、『まさか君に心配されるとは』と思わず言ってしまったんだ。そしたら怒られた」
一倉は目を丸くした。
それから呆れた顔になる。
一倉ならやりそうな失言だが、室井にしては珍しい。
室井は慌てて、何故か一倉に弁解した。
「いや、青島に心配される覚えは無いと言ったわけじゃなくて、それはいつもの俺の台詞だなと単純に思っただけだったんだ」
「俺に言い訳してどうするよ」
一倉が呆れたように言うとそれもそうだと思ったのか、室井は溜息を吐いて押し黙った。
室井が青島に嫌味を言うわけもないのだから、本当に他意のない室井の感想だったのだろう。
それに青島がカチンと来たということは、それだけ青島が室井を真剣に心配していたということで。
室井の思わず出た感想は、やはり失言だったということだ。
一倉は苦笑を浮かべた。
「どうせまたしばらく会えないんだろ?もう一回電話して、さっさと謝ったらどうだ?時間が経つと面倒だろう」
珍しくも建設的な意見を述べると、室井は携帯を見つめて頷いた。
「…そうだな。今のは俺が悪い」
不用意な発言だったという自覚がちゃんとあるのだろう。
室井はすぐに電話を掛けなおし始めた。
しばらく待ってようやく通じたらしい電話に向かって、少し必死で語りかける室井。
それほどせずに室井の表情が柔らかくなり、仕舞いには緩くなったのを見て、一倉は溜息を吐いた。
「なんだ、やっぱり惚気じゃないか」
END
2004.10.8
あとがき
ノリは「一倉氏の受難」でしょうか〜。
青島君は虫の居所が本当に悪かったのかも。
室井さんの失言ですが、膨れるくらいでそんなに怒らない気もします。
本気で心配してるのに茶化されたら腹は立つかもしれませんが…(^^;
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