■ ちょうだい


湾岸署にたまたま顔を出した室井を捕まえて青島が夕飯に誘うと、それを見ていたすみれが何故だかついてきた。
すみれの目には、室井が財布で青島が小銭入れくらいに映ったのだろう。
それを知りながら室井も青島も、仕方がないと諦める。
相手はすみれである。
逆らわないことにこしたことはない。
特に食い物が絡んでいる時は。
ビールを美味しそうに飲んでから、すみれは言った。
「二人でご飯食べる時って、いつもこういう居酒屋?」
「何か文句ある?」
枝豆をつまんでいた青島が、じろりとすみれを見る。
ご馳走になる身分で文句をつけるとは図々しいというものである。
それが伝わったのか、すみれは首を竦めた。
「文句はないけど、意外と質素なんだなぁと思っただけよ。キャリアってもっとすごいもの食べてると思った」
凄いものとは一体何だろう?と室井は密かに思いながら、首を捻る。
思うだけで口にはしない室井に代わって、青島が突っ込む。
「キャリアだって居酒屋くらい来るでしょ。それに室井さんだけならあれだけど、俺の財布の都合も考えて貰わないと」
「ああ…まあ、そうよね。青島君が破産しちゃうわね」
ほぼ同じ給料のすみれには言われたくないが、その通りなので青島もそれ以上文句は言わない。
「ん。でも、美味しー」
すみれが揚げ出汁豆腐をパクつきながら言うので、青島も思わず手が出る。
「それ、美味そう…少しちょうだい」
「嫌よ、これしかないんだから」
コレしかないというが、器一つ分をほぼ平らげたのはすみれである。
それにも関わらず、すみれは器を抱えこんで青島に向かって舌を出した。
青島と室井にご馳走になっているという意識があるのか無いのか。
むぅっと唸った青島に、室井は苦笑した。
「もう一つ頼んだらどうだ?」
そう言われた青島が室井に視線を向けると、室井はほっけを突付いていた。
「それも、美味そう…一口ちょうだい、じゃなくて、ください」
青島がついすみれに言うように言ってしまい、慌てて言いなおした。
室井が変な顔で青島を見ていたが、視線を逸らすと皿を青島に差し出した。
「全部食っていい」
「え?あ、こんなにいりませんよ。すみれさんじゃあるまいし。室井さんも食ってくださいよ」
「あ、ああ…」
何か動揺している室井に、青島は首を傾げる。
訝しげな視線から逃れるように、室井は皿に手を伸ばした。
それを見ていたすみれが、耐え切れずに吹き出す。
「ちょっと、なにさ、すみれさん。突然…」
青島が目を白黒させるが、すみれは何でも無いと手を振って笑った。
室井の名誉のためである。
室井は眉間に皺を寄せてビールを煽った。
まさか自分に向けられた「ちょうだい」という、いい大人が使うには可愛らしい言葉に反応してしまったことなど、口が裂けてもいえなかった。










END

2004.10.28

あとがき


室井さん、バカですねぇ(笑)
むしろお前がな!という声が聞こえてきそうです。




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