■ じゃあ


湾岸署を出て、駅までの道のり。
たまたま署に顔を出した室井と、連れ立って歩く。
もうすぐ明日になる時刻。
明日も朝が早いので、今日は駅で別れることになっている。
それが残念ではあるが、会う予定がないのに会えたことは素直に嬉しかった。
「青島?どうかしたか?」
横を歩く室井に声を掛けられて、青島は微笑む。
「いや、ラッキーだったなぁと思っただけですよ?」
そう答えると意味が分からなかったのか、室井が不思議そうな顔で見てくる。
「残業してて良かったなぁと、思っただけです」
そこまで言えば伝わったらしく、室井が小さく笑った。
ぶつぶつと文句を言いながら溜まった報告書を捌いていたところに、所用で湾岸署に立ち寄った室井が刑事課にやったきたのだ。
青島がラッキーだと思ったのも、無理はない。
「報告書は溜め込まない方が良いと思うぞ?」
室井が尤もらしく忠告するが、青島が笑ってかわす。
「あ、溜め込んでたから残業してたんですよ?だから室井さんにも会えたんですよ?」
「…君のポジティブな考え方は、時々羨ましくなるな」
「褒め言葉と受け取っときます」
冗談交じりに開き直る青島。
半ば呆れてもいたのだろうが、それでも生真面目すぎる室井には羨ましいという気持ちがないわけでもなかったのかもしれない。
「そうしてくれ」
そう言って、室井は苦笑した。


駅の前まで来て、青島はちょっと足を止めた。
つられて室井も立ち止まる。
二人とも何となく視線を合わせない。
それだけで、青島は室井も同じ気持ちだと確信する。
折角久しぶりに会ったのに、一緒にいたのは湾岸署から駅までの距離だけ。
話したいこともいっぱいあるけど、帰宅途中の道で出来る話はそう多くない。
何も多くのことを望んでいるわけではないのだ。
後、少しだけ。
ほんのちょっとだけ。
一緒にいたいだけなのだ。
青島は両手をパンと叩いた。
「じゃあ」
そして、自動販売機を指差した。
「コーヒー買って、少しだけ立ち話しません?」
コーヒー一缶分だけ。
そう青島が言うと、室井はちょっとだけ呆けて、それから小さく笑みを溢した。
「『じゃあ』の意味が分からないが?」
クスクス笑う室井に、青島も言われ「あれ?」と思う。
確かに青島が頭の中で勝手に答えを出しただけで、室井は何も言っていない。
「じゃあ」の意味が分からないし、必要も無かったのだ。
青島は照れくさくなって、ちょっと赤面をした。
「そんな、笑わないでくださいよ」
「すまない…」
謝りながらも、中々笑いを収められずにいる室井に、青島はちょっとだけ膨れた。
「で、どうするんですか?」
ヤケ気味に言うと、室井が笑った。


「コーヒーは俺が奢ろう」










END

2004.6.5

あとがき


頭の中で考えて、その続きだけを口に出してしまい、
周りを混乱させることってありませんか?
話の過程が全くないから、周りの人にはさっぱり…みたいな。

そういうお話にしたつもりだったのですが、分かり難かったかもしれません。
申し訳ないです。
単純に青島君と室井さんがいちゃいちゃしているだけの話なので、
それが伝わっていれば充分v(笑)



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