■ 例え何かを失うことになっても
「おい、青島」
堪えきれずに室井は青島に声をかけた。
青島からの返事はない。
それに構わずに室井は続けた。
「俺はもう行くぞ」
「…っ!ちょっと待ってくださいよ」
「悪いが、付き合いきれない」
情けない声を上げる青島だったが、室井は丸っきり取り合わない。
「俺の気持ち、分かってください!」
「…無理を言うな」
眉間に深い皺を寄せる室井。
それでも青島は食い下がってくる。
「だって……どうしても欲しいんです」
「俺は興味がない」
「ひどい…」
「青島」
室井は不機嫌面を隠しもしないで、溜息を吐いた。
「今まで付き合っただけでも、譲歩したつもりだったが?」
「っ!」
青島は言葉に詰まって、唇をかんだ。
少し悩んでから、暗い表情で呟く。
「わかりました、もういいです」
そう言われて、室井は安堵した。
「先帰ってください」
続く青島の言葉に、室井はうんざりした。
「青島…」
「もう、今更引けないんです!男なら、室井さんだって分かるでしょう」
「良く分からない。というか、男だとか関係ないだろう」
最早呆れ果てている室井に、青島はヤケ気味に言った。
「男には何を失ってもやらなければいけないことがあるんです!」
「何をもなにも、失うのは金だけだろうが」
「ええ!だから、いくら失っても!」
どうしても取らなくちゃいけないものが、その熊のぬいぐるみか。
室井は痛む頭を抑えながら思った。
青島が先ほどから夢中になっているのはUFOキャッチャーだ。
黄色い熊が蜂蜜の壷に手を突っ込んでいるぬいぐるみ。
その緊張感のない表情が可愛いと言えないくもないのかもしれないが、室井にその魅力は良く分からない。
青島だって、特別その人形に興味があったわけではないはずだ。
軽い気持ちでゲームに興じ、「ヒケナイ」という理由で小一時間も粘っている。
今まで文句も言わずにそれに付き合っていた室井だったが、さすがに帰りたくなっても無理はないだろう。
「青島、破産する気か?」
「うっ!」
室井を振り返って、半泣きになる青島。
「だって、もう一万近くも使ってるんですよ!」
そんなに使ったのか…と室井は呆れながらも最後の譲歩を考え付いた。
胸ポケットから財布を出すと、千円札を一枚出した。
「これで、最後だ。これで取れなかったら、大人しく帰るぞ」
最後の千円など焼け石に水だろうが、それでも室井の金まで使えばいくら青島でも諦めるだろう。
折角久しぶりにあったのに、これ以上こんなことに時間をつぶされてはたまらないというのが室井の本音である。
その辺りを理解しているのかしていないのか微妙な青島は、非常に嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
「最後だぞ」
「はい!」
意気揚々と両替機に向かう青島の後姿を、室井は溜息を吐いて見送った。
「室井さん、すごいです」
「…俺は何もしてない」
「だって、あんなに取れなかったのに。室井さんの千円でやったら取れるんですもん」
「君がいい加減慣れたんじゃないのか?」
「絶対違いますって!室井さんの千円だからですよ!」
そんなことで尊敬の眼差しで見られても、嬉しくともなんとも無い室井だった。
END
2004.6.25
あとがき
頭の悪そうな青島君。
一度手をつけると途中でやめられなくなる気持ちは分かりますけどね。
そして、室井さん、甘やかしすぎ(笑)
プーさん、好きですv
あの緊張感が無い感じが好きです(笑)
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