■ 3番目のそれ
「室井さん、それ取ってくれませんか?」
「それ?」
「右から3番目のそれです」
「ああ…」
「ありがとうございます。で、それをこれにしまっといてください」
「構わないが……青島」
室井は言われた通りにしながら、苦笑した。
「それとかこれとか言ってると、そのうちボケるぞ」
代名詞で喋っているとボケやすくなるらしいと聞いたことがあったのだ。
青島もそれは知っているらしいが、肩を竦めてみせる。
「まだ若いから大丈夫ですよ」
「今癖を抜いとかないと、歳を取ってからも出るだろう」
「大丈夫。ボケたら室井さんに世話してもらうから」
何が大丈夫なのか分からないが、青島は楽しそうに笑った。
室井もつられる。
「それはいいが、俺より先にボケる気か?」
「4年の差じゃ、大したことないでしょ」
「まぁ、そうか」
言われてみればその通りで、室井もあっさり同意する。
例えば86歳と90歳だとしたら、どちらもあまり変わらない気がする。
室井はぼんやりと考えて、青島を横目で見つめた。
「…やっぱり、俺より先にボケるな」
「なんでですか?あ、自分の世話をする人がいないとか思ってます?」
「そうじゃなくて」
「?」
「君が俺のことをわからなくなるのは、寂しい」
青島が目を丸くした。
照れくさくなって、室井は視線を逸らす。
すると、青島が笑った。
「大丈夫です」
「何が」
「俺、ボケても室井さんのことは分かるから」
どこから来る自信か全く分からないが、青島がそう言うとそう思えるから不思議なもので。
呆れ気味に青島を見返した室井は、小さく笑みを零した。
END
2004.5.6
あとがき
何の気なしに老後の話なんか出来る関係って良くないです?
色気は皆無ですけどね(笑)
この二人が老後も一緒にいたらいいなぁという、私の妄想でした。
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