13.「それでは参りましょうか」












「ありがとうございましたぁ」

青島はぶりっ子気味に笑って手を振る。

―役者にでもなれば良かった。

上機嫌で帰っていくお客の姿を見送りつつ、心の中でぼやく。

潜入捜査に入って早1週間。

決してやりたいわけではないが、慣れとは恐ろしい。

女口調で、酒を作って、愛想を振りまく。

演技しているつもりになれば、出来てしまう自分が青島は恐ろしかった。



「板についてるじゃないか」



客を見送った姿のままぼうっと突っ立っていた青島は、背後から聞き覚えのある声を聞いてギクリ

とした。

恐る恐る振り返ると、そこに立っていたのは予想通り。

「いっ」

一倉だった。

名前を呼ぼうとしたのか悲鳴をあげたかったのか、判断に困るような奇声を上げる青島。

「よう」

ニヤリと笑われて、青島は顔から血の気が引いた。

「公務員のバイトは禁止されてるはずだが?」

バイトのわけがないだろう!

どなってやりたいが、捜査で来ているわけだから迂闊なことは言えない。

一倉も分かって聞いているのだろう。

その証拠に声のトーンは落としてくれている。

だからって、有難くともなんともないが。

「・・・あんたこそ、なんでこんなとこにいるんだ」

すっかり不機嫌面の青島に、一倉が首を竦める。

「趣味だ」

絶句する青島。

開いた口が塞がらない。

その表情に満足したように、一倉は笑った。

「冗談に決まってるだろう」

青島はげんなりした表情で溜息を吐き、肩を落とした。

一倉の冗談にいちいち付き合っていたら身が持たない。

「・・・それにしても」

一倉が値踏みするように青島を見た。

「・・・なんすか」

「エグイな」

一倉があっさり言う。

気を悪くしたふうでもない青島が肩を竦めた。

「当たり前でしょ。俺の女装が可愛いわけがないでしょ」

腰に手を当てて胸を張る青島。

ノースリーのミニのワンピースから出ている腕も足も逞しいことこの上ない。

化粧だってただただ濃くて派手なだけで、ちっとも綺麗じゃなかった。

どこからどう見ても、間違うことのない「オカマ」である。

「もう少し何とかならなかったのか」

苦笑した一倉が尋ねてくる。

元の作りは良いのだから、もう少しちゃんとメイクをするなり体の線を隠すような服を着るだけで

大分違うはず。

「何とかしてどうしようっていうんですか」

開き直ったのか、鼻で笑う青島。

「綺麗系な人もいますけどね、俺はお笑い路線で行くことにしたんです」

「お笑い路線って・・・」

「お客に女性もいるんですけどね、結構受けいいですよ。裏声で喋ってたまに野太い声を出す。そ

うすると笑いが取れます」

取ってどうする。

だが仕事をこなす上で、青島にとっては大事なことだった。

本来その気のない青島が、オカマとして店に馴染むためには。





「そんなことより、一倉さん」

青島は一倉の腕を掴んでぐっと詰め寄った。

「っなんだ。笑えるからあまり近寄るな」

「つーか、もう笑ってるじゃないっすか」

半笑いの一倉を睨む。

「それより、室井さんも知ってるんですか」

大事なことはそれだ。

潜入捜査に入る前にどうしても室井を掴まえられず、知らせることが出来なかったのだ。

一倉が知っているということは、室井も知っている可能性が高い。

「さぁな」

にやりと笑われて、青島の眉間に皺が寄る。

知っているならそれでも構わない。

事情は後からきちんと説明をするとして。

それよりも。

「間違っても連れてこないでくださいよ」

問題はそこだ。

仕事だと割り切ってはみたものの、室井にこんな姿を見られるのだけは勘弁願いたい。

室井も青島の仕事を理解しくれれば、一倉のように乗り込んでくることは無いはず。

自主的には。

「さぁな」

再び言われて、青島の額に青筋が浮かんだ。

さすがにちょっと怒鳴りたくなってきた青島の背後に、人の気配がする。



「あら、葵ちゃん。どうしたの?」

可愛い口調だが、声は全く可愛くない。

一倉が更に見上げるくらい長身の、絵に描いたようなオカマが現れた。

青島が潜入した先のママである。

見るからに、な人だが優しくて青島は好きだった。

ちなみに、青島の源氏名は「葵」ちゃんだ。

青島は振り返ってニッコリ笑った。

「なんでもないんですぅ」

「そちらの方は?」

さすがに軽く固まっている一倉に、青島は一瞬考えてから満面の笑みを浮かべた。

「実は元彼なんですぅ」

「はぁ!?」

珍しくも動揺した一倉が、呆然と青島を見つめた。

その青島はというと、最早目が据わっている。

挙句、口元だけ笑っているから怖いったらない。

どうやら身体を張って、日頃の仕返しをする気になったらしい。

「実は私をこっちの世界に目覚めさせたのが彼なんです」

「あらあら、じゃあ、葵チャンの初めての相手?」

「いやだ、ママったら、そんなはっきり」

「!」

ものすごい嘘を女口調で語る青島に、一倉は絶句した。

「私が働き出したことを聞きつけて、心配して見に来てくれたんですって」

「やだ、じゃあ、たっぷりサービスしないと〜」

「ありがとうございます!」

青島は今だ絶句したままの一倉の腕に、自分の腕を絡めた。

「それじゃあ、参りましょうか」

「お、おい、青・・・」

「一名様、ご案なーい!」




ざまあみろ。




青島は心の中で、一倉に舌を出した。



















END
(2004.5.3)


web拍手にて続きをご希望くださっていた方々、大変申し訳ありません!
また室井さんがいません(土下座)
このままじゃあれなので、室井さん登場話も書きたいと思います。
もう一話だけお付き合いくださると嬉しいです・・・。

なんか、いっぱい言い訳したいです。
青島君の女装を「エグイ」と言ってしまって申し訳ないです(汗)
い、一応、フォローも入れたつもりなのですが(滝汗)
成人男性が女装して綺麗な場合って、そうないと思うのですがどうでしょう・・・。

全く潜入捜査については触れていませんね(笑)
もう一話書くといいましたが、恐らくそれでも触れません・・・。
おとり捜査ならまだしも潜入捜査は難しそうなので、書けないと思われます(^^;
関係ないですが、本当の警察はおとり捜査しちゃいけないんでしたよね〜?

一倉さん、暇なんでしょうかね?(笑)