■ 幸せになりたい


「幸せになりたい」
すみれが溜息混じりに呟くので、思わず青島は煙草を銜えようとしていた手を止めた。
「なによ、突然」
喫煙所でコーヒーを片手に休憩中。
突然の重たい台詞に、青島は目を丸くしている。
「別に突然じゃないわよ。私はいつだって幸せになりたいもん」
「いや…そりゃ、皆そうでしょうけど」
不幸になりたい人がいる訳が無い。
そう思った青島を、すみれが軽く睨む。
「大体、私の周りが悪いのよ」
「は?」
「誰かさんは、どこぞの某キャリアとラブラブだし」
「ゲホッ」
青島は思いっきりコーヒーを吹き出した。
「汚いわねぇ」
「……別に、ラブラブなんてしてないよ」
「あら、誰が青島君と室井さんのことだって言ったのよ」
「……」
他に誰がいるんだ。
と言いたかったが、言ってしまえばすみれの台詞を肯定しているようなものだ。
青島はぐっと言葉に詰まって黙り込んだ。
青島の反応なんか気にも留めないすみれは、紙コップを両手で抱え込んでまた溜息を吐く。
「真下君には雪乃さんがいるし」
「…真下の場合は、まだ片思いでしょ」
「いいのよ。真下君の場合は、頭の中が幸せなんだから」
どんな理屈だ、と突っ込みたいが突っ込めない。
とりあえず自分がすみれの八つ当たりの矛先から反れていてくれれば、それでいい青島。
「魚住係長は奥さんとラブラブだし。課長だってなんだかんだいってご家族と仲良いじゃない?」
ぶつぶつと言い続けるすみれを、青島はちらりと見やる。
「すみれさん」
「何よ」
「もしかして、結婚したいの?」
青島の余計な一言に、すみれは眉間に皺を寄せた。
「ちょっと、もしかしてってどういうことよ」
「い、いや、ほら、お見合いとか、断ってるでしょ?」
「そりゃあ、私にだって好みってモンがあるのよ」
「ああ…玉の輿狙ってたっけね」
青島は煙草に火を吐けて、肩を竦めた。
頷いたすみれは、ふと青島を見つめる。
「…?何さ」
「…あれよね、好物件」
「はい?」
意味が分からずにきょとんとして聞き返した青島に、すみれはにやりと笑った。
「青島君、好物件掴んでるわよね〜」
「!」
好物件=某キャリア。
青島は思わず煙草を落としそうになり、慌てる。
「ちょ、ちょっと、何…」
「いいなぁ。良く考えたら、美味しいわよね。室井さん」
ぎょっとする青島をよそに、すみれは楽しそうに続ける。
「キャリアだし、見た目だって悪くないし、性格はちょっと融通利かないけど真面目だし、まあ優しいし?」
結婚するにはもってこいよね〜。
などと言われては、青島も黙っていられない。
「ちょっと、俺の前でそういうこと言うの止めてくれる」
「あら。青島君のいないとこでなら、室井さんに手出してもいいわけ?」
「いいわけないでしょ!」
イライラと煙草を吸ってから灰皿に押し付けて立ち上がると、軽くすみれを睨む。
「あの人は、俺のもんなの!」
「ですってよ、室井さん〜」
すみれが手をヒラヒラと振りながら言うので、青島はハッして振り返る。
そこには、何故だか某キャリアが。
いつにもまして深い皺を寄せて立っていた。
「む、む、む、む」
言葉にならない、青島。
「……どうも」
怒っているわけじゃないのだろうが、表情が硬い室井。
青島は顔に熱が集まってくるのを感じた。
赤面する青島に、室井の方もつられる。
からかってやろうと思っていたすみれは、目の前のバカップルを見て青島を煽ったことを後悔した。


「幸せになりたいわぁ」










END

2004.5.23

あとがき


とばっちりすみれさんですが、ある意味自業自得ですね。
青島君とすみれさんを書くのが好きです。楽しいです(^^)



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