「・・・・・・・・・なんとか」
ぜいぜいと荒い息を吐きながら返事を寄こす青島だったが、平気そうには全く見えない。
久しぶり会ったのだから抑えが利かなくても仕方がない。
などとは、ぐったりしている青島を見ていると申し訳なくて思えない。
仰向けに横になり脱力しきっている青島の前髪を、室井は優しくかきあげた。
身体は動かさずに視線だけを室井に寄こすと、青島は微笑んだ。
それに室井も小さく微笑む。
「すまない」
「ふっ・・・・・・、謝んないでくださいよ。悪いことしたわけじゃあるまいし」
呼吸が落ち着いたらしく、小さく笑い声を漏らす。
自己嫌悪に陥りそうになる室井には、そう言ってくれる青島の気持ちが嬉しかった。
「あつ・・・・・・」
そう呟いて、瞳を閉じる。
どうやらもう何をするのも面倒くさいらしい。
無造作に投げ出された姿態には、自分が残した行為の後があちこちにあって目のやり場に困る。
室井は苦笑して起き上がるとベッドサイドに腰を掛け、脇にある机に手を伸ばした。
青島のアメスピが置いてある。
それを手に取ると一本抜いて、火を点ける。
ライターの音で煙草に気付いたのか、青島が目を開けて室井を珍しそうに見た。
「珍しい・・・」
室井が一服しているのが美味そうに見えるのか、青島は少し羨ましそうだ。
一口深く吸い込んで、唇から煙草を離す。
煙草を持ち変えると、青島の口元に手を伸ばす。
「ん」
無言で口を開くように促すと、青島は小さく笑って口を開いた。
咥えると深く吸い込む。
それを確認して、室井は再び煙草を自分の口元に運んだ。
「もしかして、」
「ん?」
「俺のためっすか?」
それ、と煙草を顎で指して笑う。
室井は灰皿に灰を落とすと、青島の口に煙草を運んでやる。
「せめてもの罪滅ぼし」
そう言ってやると、青島は煙草を口に咥えたまま笑った。
振動が煙草を通して室井の手に伝わる。
「だーから、室井さんが悪いわけじゃないって言ってるでしょ」
室井が煙草を離してやると、煙を吐いてからクスクス笑う。
身体的にはきついはずだが、何故か青島は機嫌が良さそうだ。
ぐったりしてはいるが、良く笑うし表情は穏やかだ。
室井は正直ほっとした。
多少の罵声は覚悟しなければならないと思っていたからだ。
それだけ無茶をした自覚があった。
怒ってないから安心はしたが、恐らく明日にも影響が出るだろうと思うとやはり申し訳なかった。
室井は眉間に皺を寄せる。
「しかし」
「俺も、望んだことです」
きっぱりと言われて、室井は眉間に入れた力をそっと抜いた。
抑えが利かなかったのは自分だけじゃないのは分かっていたが、青島の口から聞けて安心したし
素直に嬉しかった。
室井は咥え煙草のまま、青島の額に手を伸ばす。
前髪をかきあげて、髪を撫でる。
気持ち良さそうに目を細める青島が猫に似ていて、室井は笑みを零す。
「やばい・・・、寝そうです・・・」
「構わない」
「・・・・・・もうちょっと、起きてる」
今度は子供のような反応だったので、室井は思わず吹き出した。
灰をシーツに落としそうになり、慌てて灰皿に落とす。
「なんすか・・・」
子供だと思ったことがバレたのか、青島はちょっと膨れっ面で室井を見上げてきた。
それがさらに幼いのだが、それを言えば本格的にいじけられそうだ。
それ以前に、室井は青島をバカにしたわけではない。
むしろ。
「いや、」
「どうせ、ガキくさいとか思ってるんでしょ」
「いや、可愛いと思った」
嘘でも何でもなく思った通りに言ったら、青島は目を剥いた。
それから軽く視線を逸らされる。
「・・・・・・・煙草、もう一口ください」
どうやら照れているらしい。
少しだけ頬を染めた青島に、室井は微笑して煙草を持った手を伸ばしてやった。
室井の指先に青島の唇が触れる。
その温もりに思わず欲情する。
室井は自分自身に呆れながら、不自然にならないように意識して視線を青島から逸らした。
これ以上は青島の負担にしかならない。
そんな行為を望んでいるわけではないのだ。
指先に触れた温もりが消えるのを感じると、室井は手を引いた。
空いた手で灰皿を握り、そこにハイを落とす。
「今何時ですか?」
「3時過ぎだな、・・・そろそろ寝ないと」
「そうですね。遅刻したら、また課長に怒られる」
「俺のせいにしたらいい。管理官に捉まったといえば、文句ないだろう」
「はは。それも職権乱用って言うんですかね?」
「どうだろうな・・・」
「でも、ありかも・・・」
クスクスと笑う青島の声が、小さく聞こえてくる。
「青島、まだ・・・」
吸うか?と聞こうとして、室井は言葉を飲み込んだ。
青島を見ると、もう眠っていた。
話しているうちに眠ってしまったのだろう。
自分の4つ下とは思えないほど幼い寝顔に、室井は苦笑する。
もとから童顔だとは思っていたが、寝顔になるとそれに輪が掛かる。
室井はもう一口だけ煙草を吸うと、灰皿に押し付けて消してしまう。
そして、青島にちゃんと布団を掛けてやってから、自分も隣に滑り込む。
胸に抱きこんで、額に唇を押し付けた。
幸せだと、ぼんやり思う。
腕に閉じ込めておくことが難しい恋人だが、少なくとも明日の朝まではここにいてくれる。
この時が、多分一番幸せ。
室井は柔らかく微笑んで、もう一度額にキスをする。
「・・・おやすみ」
青島に引きずられるように、室井も眠りに落ちた。
END
(2004.3.27)
どうでしょうか。少しは色気のあるお話になったでしょうか…。
ただただまったりしてるだけでしょうかね(汗)
書きたかったのは、室井さんの手から煙草を吸う青島君です。
それだけ(笑)