illustration by Sousuke





以前ほど嫌ではなくなったにしろ、青島は本店へのお使いを命じられて快く引き受けたことは未

だに無い。

今日も袴田相手に無駄な抵抗を試みてはみたものの、意味は無かった。

威圧的に感じられる建物をじっと睨み上げてから、視線を戻し諦めたように溜息を吐いた。

「ま、行かなきゃ帰れないしね」

青島は当たり前のことを呟き、いつもの黒い鞄を背負い直して玄関に入っていった。

行き先は、警視庁刑事部捜査1課。





捜査一課には本店に戻った室井がいる。

だからといって、本店に行きたくなるわけでは決してない。

もちろん会えるのが嬉しくないわけではないが、ぜひとも本店の外で会いたい。

大体室井が暇をしているわけはなく、捜査一課にいるかどうかもわからないのだ。

―折角だからいるといいなぁ。

などと思いつつ、青島は捜査一課に向かう。

もう何度か来ているから迷うことはない。

「青島?」

階段を一段飛ばしで上っていく青島に、後ろから声が掛かる。

聞き覚えのある声に足を止めてゆっくり振り返る。

そして営業マン時代に鍛え上げた愛想笑いを、多少引きつってはいたが何とか浮かべた。

「・・・新城さん」

好んで近づきたくない男・新城が階下から青島を見上げていた。

青島が引きつっていることに気づいているのかいないのか、そんなことはお構いなしに新城はさっ

さと階段を上ってきて青島と並ぶ。

「何故、こんなとこにいる」

相変わらずの物言いに少々むかっとくるものの、青島も慣れたもので目くじらは立てない。

首を竦めて見せる。

「袴田課長からのお使いっす。捜査一課長にって」

ヒラヒラと封筒を振ってみせる。

「ふん。室井さんに会いに来たんじゃないのか」

「・・・・・・違いますよ」

「まぁ、どっちでもいいが。室井さんの邪魔をするなよ」

「!」

どう好意的に取ってもケンカを売られているようにしか取れない新城の言い草に、さすがの青島

もかちんとくる。

「邪魔なんか・・・・・・」

「してないと言えるのか?」

冷ややかな視線に、青島は思わず言葉を飲み込んだ。

室井は間違ってもそんなことは言わない。

だが青島自身は、室井の足を引っ張ってしまった自覚があった。

「君には関係ないだろう」

言葉を探していた青島の背後から聞きなれた声がする。

振り返ると室井が立っていた。

「室井さん!」

青島が驚いて声をあげると、ちらりと青島に視線を寄こしたがすぐに新城を見据える。

室井の登場に一瞬だけ驚いた新城はすぐに自分のペースを取り戻した。

「関係が無い事もないですよ」

「どういう意味だ」

「あなたが青島に煽られて暴走すれば、警察自体に影響するんです」

「私は自分の信じる道を進んでるつもりだ」

「そんな発言をしている辺りが、青島なんかに感化されている証拠だ」

「・・・・・・なに?」

「お気に入りだからってあまり甘やかしていると、そいつが増長するだけですよ」

眉間に皺を寄せつつも冷静に対応していた室井の表情が変わる。

それを見た青島の表情が再び引きつった。

青島のことで怒ってくれているのだからそれは嬉しいが、室井の表情が恐ろしい。

さっきまでは室井がいたら良いななどと思っていたが、今はいない方が良かったと切実に思った。

室井の怒りと反比例して青島の方は、どんどん冷めてゆく。

―何とか丸く治めなければ。

「む、室井さん」

「君はあっちいってろ」

室井は軽く青島を押しやって、その青島の変わりに新城と対面する。

当事者のつもりだったが、何をする間もなく蚊帳の外だ。

「甘やかした事もないし、青島は増長などしていない」

「飼い主に自覚がないから、飼い犬が駄犬になるんですよ」

「!」

絶句する室井の横で青島は、「犬扱いかい」と心の中でのん気にぼやく。

が、すぐにそんな場合ではないことに気付く。

「室井さん、あの・・・」

「撤回しろ。誰が犬だ」

キレる室井に牽制しようとした青島の声など軽く無視される。

「どう考えても駄犬でしょう。何かの役に立ったことがありますか?」

「青島は優秀な警察官だ。良くやってくれている」

「問題ばかり起してるように見えますが?」

「プライドばかり高い本庁刑事よりよっぽど熱心で働き者だ」

「素晴らしい贔屓目だ」

「公平に見てる」

「飼い主バカですか。駄犬でも飼い主には可愛いペットに見えるらしい」

室井が怒りに目を剥く。

こうなると青島にはもうどうしようもない。

青島はげんなりした。

酷い言われような挙句、その仲裁を自分自身でしなければならないなんて。

―誰か助けてぇ。

切実に願ったのが、本日2度目の失敗。

・・・1度目は本店に来た事だ。

「当たり前じゃないか、新城。どんなにしつけを覚えなくても自分に懐いてくる犬は可愛いぞ」

第3の声が割り込んできて、言われている内容は結構失礼だったにもかかわらず、青島は一瞬だ

け天の助けかと思った。

「一倉・・・」

「一倉さん」

室井と新城が険悪なムードのまま一倉を見上げた。

「考えてもみろ。良く噛み付く犬が、自分にだけはものすごく懐いているんだぞ?言う事はそこ

そこにしか聞かないかもしれないが、顔を見れば尻尾を振って喜ぶ。遊んでくれと飛びついてく

る。可愛いだろう」

お手と待てが出来ないくらい、気にならないもんだ。

そう言って笑う一倉に、青島は脱力した。

本来なら怒るべき暴言な気もするが、そんな気にすらならない。

青島が気にならなくても、室井の方はそうは思わなかったようで怒り倍増である。

「一倉!お前まで何を・・・」

「そう怒るな。俺は褒めたんだぞ?」

「どこがだ!」

「『可愛い』」

しれっと言い返されて、室井は眉間に手を当てた。

どうしてくれよう、この男は・・・。

室井の心の声が聞こえてくるようで、青島は苦笑した。

見ると、新城は毒気を削がれたようでしらけた顔をしている。

「私は失礼させていただきますよ」

そう言ってさっさとその場を離れてゆく。

新城の暴言を許した訳ではないのだろうが、室井はもう何も言わなかった。

ただひたすら頭の痛そうな室井に、青島は同情する。

―お、俺のせいかな?

そう思って申し訳なくすら思えてくるが、青島の非はどこにもない。

言ってしまえば、青島こそ被害者だ。

「あ、新城。一つ間違えた」

ふいに一倉が新城を呼び止める。

「何か?」

「待てができないのは、青島じゃなくて室井だった」

にやりと笑って言った一倉のセリフに、ぎょっとしたのは青島と室井で、言われた新城はきょと

んとした。

「・・・・・・室井さんが犬だと、仰ってるんですか?」

「青島限定でな」

青島と室井の関係を知っている一倉の意味深な物言いに、青島は乾いた笑みを浮かべる。

「一倉!」

室井は赤面している。

一人訳が分からない新城は、怪訝そうな顔だ。

やけに楽しそうな一倉の笑い声と室井の怒声を聞きながら、青島は思う。

どうやってこの始末、つけるのよ・・・。































END
(2004.3.14)



元ネタは宗助様の素敵イラストです!
もう私の駄文なんかより、一番の見所は冒頭の宗助様のイラストです!
それだけ見て帰ってくだされば、幸いv
・・・・・・ついでに読んで行っていただけるとすごく嬉しいですが(笑)

いじめっ子新城さんのご尊顔と、青島君の困った表情に萌えv
宗助様のサイトで拝見した時には、妄想しまくりでした(笑)
宗助様とBBSにて盛り上がった結果
、本当にSSを書いてしまいました〜!
私が書くと誰よりも一倉さんが目立つのですが・・・(謎)

SSのアップと素敵イラストの転載を快く承諾してくださいました宗助さまv
ありがとうございました!!

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