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3月某日。

合わせて取った休日に、青島と室井が向かったのはデパートのお菓子売り場だ。

バレンタインデーにすみれと雪乃からチョコレートケーキを貰った二人は、青島の提案でお菓子

をお返しに贈ることにしたからだ。

食い物以外は絶対反対という青島に、室井も異存は無かった。

大体センスに自信があるわけでもないので、消耗品以外は贈るつもりはなかったのだ。

デパ地下をうろうろしてみるが、二人ともお菓子に明るくないので何を買って良いものかさっぱ

り分からない。

「・・・・・・お食事券とかじゃだめなのか?」

今にも投げ出しそうな室井に、青島は苦笑する。

「そんな投げやりな。・・・・・・実は、いっそのことその方が喜ぶ気がしなくもないんですけどね」

味気ないでしょー、と言われて室井も同意する。

食事に連れて行くというのも思案したが、4人が揃うのはかなり難しい。

かといってお食事券を渡して二人で食いに行って来いというのも・・・。

義理とはいえチョコレートケーキを用意していてくれた二人に申し訳ない気もする。

「どういうのが好みかとか、分かるか?」

「量がいっぱいあって、そこそこ美味ければ喜ぶ気がします。・・・・・・すみれさんの話ですけどね」

何気に失礼な青島の判断だったが、室井は真面目な顔で頷いた。

「そうか。柏木君も同じものが良いだろう」

「そうですね。大体雪乃さんなら何あげても喜んでくれますよ」

「誰が投げやりだって?」

青島は舌を出して笑った。

男だけで女性だらけのお菓子売り場をうろつくのはそれなりの労力がいるのか、だんだん疲れて

きた二人には最早どのお菓子でも良い気がしてきていた。

「青島が食べたいものにしよう」

本当に投げ出したわけではないのだろうが、室井がそう提案する。

「え?いいんですか?それで」

「自分が貰って嬉しいものが相手も嬉しいかどうかは分からないが、少なくても自分が貰っても

困るものを贈るよりは、はるかにましだと思う」

「・・・・・・そうですね」

極論だとは青島も思うが、きっと室井自身も思っているだろうからそれには触れない。

まあ、一理あることは確かだし。

と、青島はあっさり同意した。

要するに二人とももう疲れていたのだ。

「なるべく高いのにしてくれ」

「・・・・・・3倍って言ってましたもんね」

室井もすみれが怖いのか、そう釘を刺された。





結局青島が「あ、これ美味そう!」と目を輝かせたお菓子を購入して、二人はデパートを出た。

3倍かどうかはわからないが、少なくとも二人が「お菓子がこんなに高いのか!」と驚く程度には

高価な値段だった。

無事買い物を済ませた二人は、夕飯を外で取ってから青島宅へ移動することにした。

いつもは何が食べたいか話してから店を決めるのだが、今日は室井が珍しく「行きたい店がある」

と切り出したので、そこに行くことにする。

行ってみると、こざっぱりとしたフレンチレストランだった。

落ち着いた雰囲気で地味な作りだが、高価な料理が出てくるのは容易に予想が出来る。

青島はちょっと慌てた。

「む、室井さん。俺の財布じゃ無理ですって」

「心配するな。今日は俺の奢りだ」

苦笑した室井に、青島は目を丸くする。

ご馳走になることがないわけではない。

お互いに奢ったり奢られたりする時もあるし、割り勘の時もある。

必然的に室井の方が多く払ってくれるが、それも常識の範囲内でのことだ。

収入が多い年上の人とご飯を食べる時は、よくあること。

そもそもほとんど居酒屋にしか行かない二人だから、青島も奢ったり奢られたりすることが出来

るのであって高級料理をご馳走になっても、お返しをすることが出来ない。

軽く動揺する青島を促して、室井はさっさと店に入る。

外観と同じで内装も落ち着いている。

この店なら中年の男性が二人で来てもあまり目立たない。

仕事で来ているように見えなくも無いだろう。

「室井さん、何でここ?」

「・・・気に入らないか?」

「や、そうじゃなくて」

落ち着かない青島は、きょろきょろと辺りを見回してから室井と目を合わせた。

「・・・・・・何か記念日とか、じゃないっすよね?」

自慢じゃないが、青島は恋人同士が記念日と考えるようなものをほとんど覚えていなかった。

交際し始めた日はそれとなく覚えているが、正確な日付なんて覚えていないし、もっと細かい記

念日になると全く分からない。

まさか、室井がそれを細かく覚えているとも思えないのだが・・・。

もし思えていたら申し訳ない、と青島は思ったのだ。

室井はそれに気付いてか、苦笑した。

「ホワイトデーには会えないかもしれないと思ったからな」

「ホワイトデー?」

言われて、青島も「なるほど」と思う。

恋人だったらホワイトデーもデートするものだろう。

ついさっきまですみれと雪乃へのお返しを探していたくせに、いくら当日ではないとは言え、今

室井とここにいる理由として「ホワイトデー」を思いつかなかったことが自分でも可笑しかった。

室井も首を竦める。

「折角だからと思ったのだがな、来てみると居酒屋でも良かったような気がしてくる」

青島の反応が鈍かったせいではなく、恐らく室井自身もピンとこなかったのだろう。

ホワイトデーという理由で、このレストランに来ていることに。

本当は居酒屋だろうが自宅であろうが、一緒にご飯を食べられるのならどこでも良かったはずな

のだ。

青島は微笑む。

「いえ、嬉しいっすけどね」

本当に嬉しかった。

当日まで忘れてはいたが青島がバレンタインの時に考えたように、室井も考えてくれたのだろう。

イベントそのものに意味はないけど、この日くらいは恋人らしいことを、と。

それが、青島は嬉しかった。

青島が嬉しそうに笑ったので、室井は苦笑して「そうか」と呟いた。

そこで、青島はふと思う。

「室井さん、俺結局今年のバレンタイン何にもしてませんよ?」

チョコレートケーキを二人で食べたが、あれはすみれと雪乃からの頂き物だ。

室井は軽く微笑んだ。

「貰ったが?」

「???・・・・・・あ」

思い当たって、青島は口をぽかんと開ける。

それから肩を竦めて笑う。

「あれ一つでこの夕食じゃ、室井さん大損ですよ?」

3倍どころの騒ぎじゃないと言うと、室井は手で青島に耳を貸せと合図する。

青島は素直に身体を傾けて、室井に耳を差し出した。

「前払いということで、どうだろう」

「・・・?何の?」

「君の家に帰ってからの」

「・・・・・・・・・・・・」

ちょっとの間を置いてから何のことを指しているのか理解すると、青島は呆れ顔をしつつも薄っ

すら頬を染めた。

「太らせて食べる気ですか」

「太らせなくても、充分美味そうだか」

「・・・どこのエロ親父ですか」

身体を離して青島が吹き出したので、室井もつられて笑った。





「お手柔らかにお願いしますよ」

「努力しよう」

「・・・約束はしてくんないんですね」

「・・・・・・最善は尽くす」

「絶対ですよ・・・」































END
(2004.3.13)


バレンタインデーにもまして盛り上がりません。
途中で何度も止めようかと思いました・・・。
これを書くために季節外れのバレンタインデーをアップしたのだから、
という思いのみでアップしました。
自分で書いて自分でアップしているのにこんなことを言うのはなんですが、
本当につまらないものを書いてしまいました。
読んでくださった皆様、申し訳ありませんでした。

イベント話は、私には高いハードルでした・・・。
修行して出直してきます。

言い訳ですが、現実世界でもホワイトデーってバレンタインデーに比べると
あまり盛り上がらないですよね(笑)
ほんと、言い訳です。