■ 決意・その後
「カーテンはどうする?」
「色はこだわりませんけど、遮光がいいなぁ」
「寝室はその方がいいな」
「カーペットは?」
「汚れが目立たない色がいいんじゃないか?」
「子供がいるわけじゃないし、そんなに気にしなくても大丈夫でしょ」
「子供がいなくても、君がいるからな…」
「どういう意味ですか、それ」
「……次に進もう」
「ちょっと」
「ソファーは?」
「……」
「いらないか?」
「…室井さんの部屋に立派なソファーがあるでしょ。あれ、持って行きましょう」
「あれでいいのか?」
「充分。あのソファー、俺好きだし」
「そっか。それならテーブルもうちのがいいだろう」
「DVDプレイヤーは俺のを持って行くとして、テレビは新しいの買いましょう」
「テレビは君の部屋にも俺の部屋にもあるが?」
「どっちもかなり年代モノでしょ。折角だからデカイの買いましょうよ」
「俺はどっちでも構わないが」
青島は煙草を取り出して、室井に尋ねる。
「ちょっと一服しても良いです?」
「そうだな。コーヒーでも淹れよう」
室井はそういって台所に向かった。
二人は今、青島の自宅で引越しの準備の真っ最中だった。
一緒に暮らすための部屋は室井が既に用意してくれているのだが、中身はまだ空っぽである。
次の休みには二人とも引っ越せるように、必要な物の購入計画を立てていたのである。
青島は煙草を吹かしながら、手元にあるカタログをぺらぺらと捲った。
「買い物の金は、俺が出しますから〜」
マグカップを手にした室井が戻ってくる。
「何故だ。一緒に暮らすんだから、折半しよう」
差し出されたマグカップに礼を言って、青島は上目使いで室井を見た。
「だって、あの部屋借りるのにかかった金は、全部室井さんもちでしょ」
敷金礼金、それに最初の一月分の家賃は、全て室井が出してくれていた。
半分出すと青島も言ったのだが、室井が頷いてくれなかったのである。
室井は青島の横に腰を降ろした。
「最初だけだ。来月からは折半しよう」
「それはもちろんですけど……室井さん、かなり使ったでしょ」
「たいしたことない」
「嘘だ。…これだって」
青島は煙草を消すと襟首に手を突っ込んで、身につけていたネックレスを引っ張り出す。
シルバーのネックレスの先には、先日室井から貰ったプラチナリング。
薬指に嵌めようとすると第二関節で止まってしまう指輪なのだが、青島は結局直しには行かなかった。
貰った時のまま、その瞬間の室井の想いのまま、大切にしたかったのだ。
その指輪を掌に乗せながら、青島は苦笑した。
「俺にも何かさせてくださいよ」
室井は少し困った顔をした。
考えながら口を開く。
「今回は、俺の好きにさせてくれないか?」
「どうしてです?」
青島が首を傾げると、室井はまた言葉を探しているようだった。
「…俺は君と結婚したつもりでいるんだ」
思わず息を呑む。
もちろん青島もそのつもりでいたのだが、改めて室井の口から言われるとちょっと感動してしまう。
そして、やっぱり嬉しい。
「俺も、そう思ってますよ」
照れ臭そうに微笑むと、室井も微笑を返してくれる。
「だからその準備くらい、俺がしたいんだ」
青島はちょっと考えて、呟いた。
「……つまり、俺には身体一つで嫁いで来いと?」
それに、室井は苦笑する。
「まあ、そんなところだ。さすがに身体一つで、とはいかないけどな」
「室井さん、俺、男だよ?」
「分かってる。ただ俺がそうしたいだけだ」
俺の我侭だと苦く笑われてしまっては、青島は何も言えなくなってしまう。
至れり尽くせりで嫁に来いと言ってくれているのだから、文句はない。
むしろ有り難がるべきかもしれないが、されっぱなしというのは好きではないのだ。
そんなことを望んで、室井と結婚するわけではない。
「じゃあ、やっぱり家具は俺が買います」
「それは…」
「室井さんが、俺のためにって思ってくれるの、凄く嬉しいです」
何かを言いたげな室井の言葉を遮って、青島は言った。
「けど、俺だって室井さんのために何かしたいよ」
ネックレスを持ち上げて、指輪を掲げて見せる。
「結婚するんだからね」
笑いながら言うと、室井がそっと息を吐いて苦笑した。
「君のそういうところに、惚れたんだった」
ぽつりと呟いた一言に、青島は目を丸くした。
それから、破顔する。
「室井さんの我侭聞いてあげますから、俺の我侭も聞いてくださいね」
「分かってる」
床に手をついた室井が身体を寄せてきたから、青島は目を閉じた。
「後は何が要りますかね」
「冷蔵庫や洗濯機はどちらかの家から持って行けばいいしな」
「ベッド、どうします?」
「……ダブルだろう」
「や、やっぱり?」
「セミダブルでもいいが、広い方がいいんじゃないか?」
「そうじゃなくて……一緒に買いに行くんですよ?」
「……君が嫌なら、俺一人で買いに行くが」
「い、嫌じゃないですけど!」
「一緒に家具を買いに行っている時点で、バレバレだと思うが?」
「そ…そうですね…」
「……嫌なら、」
「嫌じゃないですってば!行きますよ!」
「無理しなくても良いぞ」
「無理じゃないってばっ。いじけないでくださいよ!」
「いじけてない」
「眉間、寄ってる」
「……」
「だからっ!嫌なんじゃなくて!照れくさいだけだってば!」
END
2005.2.2
あとがき
通販でもしたら如何でしょうか(笑)
シリアスな話の後日談なのに、ただのバカップルで申し訳ありません。
二人で買い物の相談してたら可愛いなぁと思ったのですが…。
ただただバカップルになってしまいました;
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