■ 携帯電話
「くしゅんっ」
大丈夫か?風邪引くなよ。
「大丈夫っすよ。頑丈なのがとりえでね。それに家までもうちょっとです。室井さんの方こそ大丈夫っすか?風邪引いてません?」
ああ、大丈夫だ。風邪を引いてる暇もない。
「テレビで見ました。本店も忙しそうですね」
まあな。いつものことだ。
「……室井さん」
なんだ?
「明日の約束、忘れてるでしょ」
…………いや。覚えてる。
「その間はなんすか。何かおかしいと思ったんだよな。電話くれたのに明日のことに一つも触れないから…」
だから、忘れてないって。
「室井さん」
なんだ。
「今、特捜いくつ抱えてます?」
4つ…、いや、5つか。
「飯、ちゃんと食ってます?」
食ってる。
「昨日の朝から今日の夜までの食事を教えてください」
…死なない程度には食ってる。
「睡眠時間は」
足りてる。
「普通の人は2・3時間で足りてるとは言いません」
……(なぜ分かる。)
「室井さん」
……なんだ。
「忘れてたでしょう」
…………すまない。
「(ぷ)…まーったく、電話くれたから喜んだのになぁ」
しばらく会ってなかったら、声だけでも聞きたくなった。
「許しましょう」
…早いな。
「いい年こいた野郎がいつまでも拗ねてたら気持ち悪いでしょう。……忙しいときはお互い様っすからね」
すまない。
恩田刑事は元気か。
「すみれさん?元気、元気。今日も、スリと追いかけっこしてましたよ」
そうか。
「とび蹴りですみれさんの、反則勝ち?かな」
とび蹴り?
「はい」
恩田刑事の?
「はい」
……さすが刑事だ、と言っておこう。
「そうしてください。とび蹴りが飛んできたら困りますから」
前に君が家に置いて行ったカップラーメン。
「あ、美味かったですか?」
美味かった。
「俺、今あれが一番のお気に入りなんすよ」
一倉も美味いと言っていた。
「い、一倉さん?」
昼飯をゆっくり取る時間が無くて家から持って来たカップラーメンを捜一で食べてたら、一倉が欲しがったから分けてやったんだ。
「捜一で食っていいんすか。そんなもん」
…?なんでだ?君らも所轄で食ってるだろう。
「そう言われれば、そうっすけどね。でも、キャリア二人でカップラーメン啜ってたら、一課の連中びっくりしてたでしょう」
まあ、多少、注目されてた気はするが。
「特捜本部の弁当ばっかだと飽きますか」
……贅沢な話だな。
「いえ、本部の弁当食いたいですけど、俺だってきっと毎日は飽きますよ」
そうか。
「ええ。あ、けど、間違ってもすみれさんには漏らさないでくださいよ」
…そうだな。
「明日は、時間が取れるならゆっくり休んでください」
約束した。夜、会おう。
「だめっす」
やっぱり、怒ってるのか?
「違いますって。ここの所忙しいんでしょ?室井さんが約束を忘れるってことは、それだけ疲れてるってことだ」
大丈夫だ。
「休んでください」
青島。
「今の室井さんに必要なのは、俺と遊ぶことじゃなくて、ゆっくり寝ること!」
しかし…。
「いいですか?俺に会わない分仕事しろって言ってんじゃないですからね?休むんですよ?寝てくださいね?」
青島…。
「こうして電話で話せただけ、俺は嬉しいっすよ」
青島、でも、俺は君に会いたい。
「……」
青島?
「そういうことさらっと言うの止めてくださいよ…」
そうか。
「そうか、ってねぇ…。はあ、まあ、いいや」
青島。会おう。
「……分かりました。こうしましょう」
なんだ?
「仕事が終わり次第室井さん家行きます。飯食って一緒に寝ましょう」
???
「一緒にゆっくり休養しましょう、ということです。俺も忙しいっすからね。室井さん家でゆっくりさせてもらいますよ」
あ、ああ…。いいのか、青島はそれで。
「あ、何もしませんよ?」
…分かってる。
「明日はきっと良く眠れますよ」
そうだな。
「室井さん」
ん。
「俺も、会いたいです」
「くしゅんっ」
おい、大丈夫か?家までまだ遠いのか?
「もうすぐですよ。それまでは付き合ってくださいね、電話」
冷たいな。家に着いたら俺は用なしか?
「そーですよー。暖かい家に入ったら室井さんは用なしです」
なら、今は俺の声で暖かくなってるということか。
「…そういう恥ずかしいことを声に出して言わないでください」
いいじゃないか。
「顔見えないと、強気ですね」
そうか?…そうかもしれないな。
「電話切ったらすぐ寝てくださいよ?」
分かってる。
「本当ですか?仕事持ち帰ってるんじゃないでしょうね〜。明日目の下に隈でも作ってたらソッコー帰りますよ」
……実は、俺の部屋にいるんじゃないか?君は。
「ふ、俺を甘くみないでくださいよ?」
充分警戒してたつもりだが。
「警戒って…、恋人に何てこと言うんですか」
冗談だ。
「当たり前です。あ」
どうした?
「日付、変わりました」
ああ…。
「部屋、目の前です」
そうか。
「室井さん」
ああ。
「今晩、会いましょうね」
待ってる。
冬の、ある夜のお話。
END
2004.3.3
あとがき
会話だけのお話は読むのも書くのも好きです。
問題は好きだからといって、上手に書けるというものではないということでしょうか(笑)
でも、たぶん、また書きます〜。懲りずに!
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