■ MY GIFT TO YOU
「誕生日に何が欲しい?」
室井にそう聞かれて、青島はソファーに寝転んだままの体勢で「そういえばもうそんな時期か」と思った。
室井と付き合い始めて、初めての誕生日である。
「休暇」
「……」
「それも、俺と室井さんの二人分」
わざわざピースサインを作って主張すると室井は苦笑した。
「俺に買えるものにしてくれないか?」
頬を膨らませて、青島は身体を起こす。
「買えません?キャリアでも?」
「買えるか、そんなもん。買えるなら、とっくに買ってやってる」
言われてみれば、その通りである。
付き合い始めてから、イベント事で一緒に過ごせたことはまだない。
青島の誕生日が年末なのだから忙しいのは仕方が無いが、出来ることなら誕生日くらい一日ゆっくり室井と過ごしたいという願望が青島にはあった。
『プレゼントはいらないから、一緒にいたい』
なんて乙女なことは口には出せないが、本当はそれが素直な気持ちだった。
「あぁ〜あ」
背もたれに身体を預けてだらしなく伸びていると、室井が隣に腰を下ろした。
「夜は会いに来るから。遅くなるかもしれないが」
そう言われて、青島はちらりと室井を見た。
室井も苦笑しながら青島を見つめている。
青島は寄りかかる対象を背もたれから室井に変更して、その肩に寄りかかった。
「…ありがとうございます」
我侭を言っても仕方が無いこと。
青島も室井も、事件があれば事件を優先してしまう。
だから現実に青島が願うのは、本の少しでも長く室井とその日を過ごすこと。
ただそれだけだ。
「…で?」
ふいに室井が呟いた。
青島は室井の肩に頭を預けたまま、視線だけを室井に向けた。
「で、とは?」
「誕生日、何が欲しい?」
再度聞かれて、青島は苦笑した。
「室井さんがくれるもんなら、何でも嬉しいけど」
「…それだと、困る。何を贈っていいか分からない」
眉間に皺を寄せた室井を見て、青島は身体を起こした。
そして手を伸ばすと、室井の両頬を包む。
「室井さんが俺にあげたいモノ」
それが欲しいと言うと、室井はますます難しい表情になる。
青島が腕を引くと、室井は大人しくそれに従った。
近づいた室井の眉間に唇を押し付ける。
「精々悩んでください」
ニッコリ笑うと少し恨めしそうな目で睨まれる。
「その間は俺のこと一杯考えるでしょ?俺はそれが嬉しい」
そう言うと、室井は目を丸くした。
それから青島の背中に腕を回して抱きしめてくれる。
「…これ以上君のことを考えろっていうのか?捜査にならなくなる」
「嘘ばっかり」
額をつき合わせて、クスクスと笑いあう。
「嘘じゃない」
「いや、絶対嘘。室井さん、捜査の時はそのことしか考えてない」
「……毎日寝る前には必ず君の事を考えてる」
室井は嘘が吐けない。
吐いてもすぐにばれるから。
だから、今の室井の台詞が嘘じゃないことは、青島には良く分かる。
青島は微笑んで、室井の首に腕を回した。
「上出来」
満足そうにわざと偉そうに言うと、室井は苦笑した。
笑いながら近づいてくる室井に、青島は瞳を閉じた。
青島の欲しいものは「時間」。
室井と二人で過ごす「時間」。
もちろん室井にしかあげられないものだが、誕生日当日にプレゼントできる保証はどこにもない。
そうなると、室井は他のプレゼントを考えなければならない。
室井は青島と会った翌日から、ずっとそのことを考えていた。
捜査中には考える隙はやはりないが、休憩中や移動の車中、風呂の中などでは、ずっと青島のことを考えている。
謀らずとも青島の望んだ通りになってしまったと思い、室井は苦笑した。
時間が欲しいといわれたせいか、最初に浮かんだプレゼントは時計だった。
だが青島は趣味で時計を集めているから、好みもあるだろうと思うと贈り辛い。
アクセサリーの類をしているところは見たことがないから、贈るのは躊躇われる。
本・CD・DVD…。
室井は喫煙所でコーヒーを片手に休憩しながら、溜息を吐いた。
コレと思うプレゼントが浮かばない。
他ならぬ青島の誕生日である。
青島が「室井があげたいと思うもの」が欲しいと言ったので、自分が本当にあげたいものをあげたいと室井は思っていた。
「…本当にあげたいものか…」
本当にあげたいものはやはり「時間」である。
青島が一番欲しがっているものだということもあるが、何より自分も欲しいから。
休暇はあげられなくても、どんな形でもいいから一緒に過ごせる時間をあげられたら。
室井が物思いに耽っていると、やはり休憩に来たらしい一倉が喫煙所に入ってきた。
「何してんだ?」
「…休憩してる」
「それは、見れば分かる。じゃなくて、眉間寄ってるぞ」
眉間に人差し指を当てて、一倉が指摘してくる。
室井は嫌な顔をしつつ、ふと思った。
一倉に贈り物の相談をしてみるか。
既婚者だし、室井より社交的だから、相手が喜びそうなものを知っているかもしれない。
「一倉」
「あん?」
「……」
口を開きかけた室井は、少し考えてからそのまま口を閉じた。
―その間は俺のこと一杯考えるでしょ?俺はそれが嬉しい。
青島はそう言っていた。
室井が誰かに助言を貰ったら、その気持ちを裏切ることにならないか。
そう思ったのだ。
室井は溜息を吐いた。
例え青島が欲しいものではなくても、室井自身が考えて贈ったものなら青島は言葉通り喜んでくれるだろう。
こうして室井が頭を悩ましている時間が、青島には嬉しいのだ。
青島がそれを望むなら、室井はそうするべきだと思った。
青島の誕生日プレゼントである。
「おい、室井?」
声を掛けられたまま放置された一倉が、怪訝そうに尋ねてきた。
室井は緩く首を振ると、苦笑した。
「いや、何でもない」
一倉がやっぱり怪訝そうな顔で見てきたが、室井の頭の中は青島のことで一杯だった。
―さて…何を贈ろうかな…。
***
13日の夕方に室井から電話があった。
『今夜は帰れそうか?』
「今のところは」
珍しくも事件が少なくてと上機嫌で答えると、電話の向こうで室井が笑った。
『そっか、俺もなるべく早く上がろう』
「あ、大丈夫です?無理しなくてもいいですよ?」
『いや、こっちも何とかなりそうなんだ。それで今日のことなんだが、君の家じゃなくて俺の家でも構わないだろうか?』
室井の提案に首を傾げる。
青島の家に来るものだと思っていたからだ。
尤も、室井に会えるならどちらの家でも構わない。
「もちろん!」
『ありがとう。もし君の方が早かったら、適当にしていてくれ』
合鍵は随分前に貰って持っていた。
実のところ、あまり使ったことは無かったのだが。
お互い忙しいので、突然押しかけることが滅多に無かったからだ。
相手の都合を確認してから会いに行くから、必然的に合鍵を使うことが少なかった。
「了解っす。何かつまみ買っていきますか?」
何の気なしに尋ねると、室井がまた笑った。
『何で今日に会うか分かってるか?君の誕生日だぞ』
「…それもそうですね」
『きりたんぽ鍋でいいか?』
「やった!」
青島は子供みたいに喜んだ。
室井のお手製のキリタンポ鍋は、すでに青島の好物になっている。
真夏でも食いたいと言い出して、室井に呆れられるほどだ。
『じゃあ、今晩』
「はい!」
電話を切った後、青島はしばらくの間緩んだ表情が元に戻らなかった。
夜になり室井の自宅に行くと、すでに電気がついていた。
室井の方が早くあがれたらしい。
インターホンを押すと、すぐに室井がドアを開けてくれる。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。すいません、ちょっと遅くなっちゃいました」
「気にするな」
中に招き入れられると、鍋の準備をしていたのか、良い匂いが漂ってきた。
またも緩む表情に、青島は頬を押さえる。
「俺…こんな幸せでいいのかなぁ」
思わず呟いた一言に、室井が目を丸くしてから苦笑した。
「きりたんぽくらいで、そんなに幸せになるな」
俺の立場がないだろうと言うから、青島はにへらっとやっぱり締まりのない笑顔を見せた。
「違いますよ。室井さんがいて、鍋作って誕生日のお祝いをしてくれて、嬉しいなーってことです」
そう言うと、室井は微笑して青島の髪をくしゃりと掻き混ぜた。
そんなやり取りでやっぱり幸せだと思ったが、今度は口には出さなかった。
進められるままテーブルにつくと、すぐに室井が下準備の済んだ鍋に火を入れてくれる。
「美味そう…」
「ビールでいいか?」
「あ、はい」
グラスにビールをついでもらって、室井が差し出すグラスに軽くぶつける。
「おめでとう」
室井が微笑むから、青島も嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
もうおめでたい年でもない。
そうは思うが、特別な人からの「おめでとう」はやはり特別だった。
「青島」
青島が上機嫌に鍋を突いていると、室井が徐に箱を差し出してきた。
綺麗な包装紙に包まれてリボンが掛かっている。
青島は照れくさそうに笑った。
「あ…と、ありがとうございます」
欲しいものを聞かれていたのだからくれるとは思っていたが、実際差し出されると照れくさい。
そして、それ以上に嬉しい。
青島が箱を受け取ると、室井が苦笑した。
「俺なりに考えたんだがな」
「嬉しいです…開けていいっすか?」
室井が頷くのを確認してから、包装紙に手を掛ける。
包装紙を剥いで、青島は目を丸くした。
プレゼントは、ジグゾーパズルだった。
青島でも分かる有名な画家の2000Pのパズル。
青島はパズルをほとんどやったことがない。
室井から好きだと聞いた覚えもないし、室井にやってみたいと言った覚えも無かった。
だから、室井がコレをプレゼントに選んだ真意が分からない。
「どうして、これを?」
青島が尋ねると、室井は少し強張った表情で言葉を探しているようだった。
「…時間は、やっぱりあげられないから」
その一言で室井が青島の願いを真剣に考えていてくれたことが伝わって、青島は嬉しくなる。
「せめて、少しでも一緒にいられる時間をあげたかった」
「それで、パズル?」
まだ、室井の真意が見えない。
きょとんとした青島に、室井は頷いた。
「俺の家に置いておいて、作れ」
「…?」
「俺がいない時でも、合鍵使って勝手に来ていいから。青島の都合のいい時に来て、パズルを完成させるといい」
「!」
室井のプレゼントの意味が、ようやく青島にちゃんと伝わる。
約束をしなくても。
会いに行く特別な理由がなくても。
青島は好きなときに、いつでも勝手に室井の自宅に行ける。
パズルを作るために。
室井はそういう形で青島に、「二人で一緒に過ごす時間」をくれたのだ。
そして、それがきっと室井が青島に一番あげたかったもの。
青島は手にした箱を愛しそうに眺めた。
「室井さん…」
「自宅に帰れないほど忙しい時は希だから、俺も手伝えるし」
照れくさいのかボソッと付け足した室井が嬉しくて、青島は手にしていた箱をそっとテーブルの上に置いた。
そして、いそいそと室井の真横に移る。
「あおしま?」
目を丸くした室井の両頬を掴んで引き寄せると、そっと唇を重ねた。
突然で一瞬硬直した室井だったが、浅いキスが深くなるとすぐに青島の腰を抱いて応えてくれる。
青島は室井の唇を軽く吸ってから離れた。
至近距離で見詰め合って鮮やかに微笑んで、もう一度室井の唇に音を立ててキスを贈る。
「ありがとうございます、室井さん」
上機嫌な青島にホッとしたのか、室井の表情も緩くなる。
「気に入って、くれたか?」
「室井さんがくれるもんなら何でも嬉しいけど、」
「うん?」
「このプレゼントは、死ぬほど嬉しい」
「…そっか」
苦笑した室井が、今度は触れるだけのキスをくれる。
目を閉じて受け入れて、青島は室井の首に腕を回してしがみ付いた。
「本当にいつでもいいんですか?夜中とかにも来るかもしれませんよ?」
「構わない。君に会いたくないときはないから」
「完成するまでに、凄い時間掛かるかも」
「実はその方が嬉しい」
「…室井さん」
「ん?」
「ありがとう」
結局室井が用意した鍋は夜中に食べることになるのだが、二人とも幸せだった。
END
2005.1.2
あとがき
青誕祭終了に伴いまして拙宅でアップしました、青島君のお誕生日話です。
生まれてきてくれて、ありがとう!
誰かへのプレゼントを探すのは楽しいですよね〜。
私はセンスがないので、結局は無難なものを贈ってしまいますが(笑)
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