「いや・・・美味かったな。また来よう」
「あ、次は俺が奢ります」
「楽しみにしてる」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ここでお別れですね」
「そうだな」
「それじゃあ」
「また」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互い別れの挨拶を交わしたというのに、一歩も動かない。
青島が何となく室井をじっと見詰めていると、室井も黙って見返してくる。
妙な沈黙。
それに耐えかねて、青島は苦笑した。
「室井さん、何で帰んないんですか」
「・・・君こそ」
「室井さんが帰んないからですよ」
「俺は君が帰らないから帰れないんだ」
再び妙な沈黙が降りる。
青島は困った表情を浮かべ、室井は眉間に皺を寄せる。
まだまだ不毛な会話は終わらない。
「ここはやっぱり室井さんから帰ってもらわないと」
「何で。君からでもいいだろう」
「上司を見送るのは、部下の役目でしょ」
深い意味も無く発した青島の台詞に、室井は眉間の皺を更に深くした。
「俺は君の上司としてここにいるわけじゃない」
言われて、青島は目を丸くした。
室井に先に帰ってもらうための謂わば口実だっただけで、そんなつもりで言ったわけではなかっ
たのだが。
室井は気に入らなかったらしい。
暗に恋人なんだということを強調した室井に、青島は思わず顔が緩む。
嬉しそうな表情を隠しもしないで、笑った。
「嫌だなぁ。当たり前でしょ?俺の恋人なんだから」
「・・・君が言ったんじゃないか」
いくらか眉間の皺が浅くなるが、まだ不服そうである。
「室井さんが素直に先に帰らないからですよ」
「何だそれは・・・。君から帰れ」
そして、会話は振り出しに戻った。
それに気がついたのか、室井が苦笑する。
「・・・明日になるぞ、このままだと」
「あははは、本当っすね〜」
「笑い事じゃない」
「真面目に語り合うような話でもないんじゃないっすか?」
「・・・それも、そうだな」
視線を合わすと、どちらからともなく吹き出した。
意味のない会話を繰り返していることは、会話をしている本人たちが一番良く分かっている。
「なーにしてんですかね、俺ら」
「全くだ」
自分たちに呆れて、二人とも笑うしかない。
「・・・・・・ジャンケンでもします?」
「・・・・・・よし。じゃあ、勝った方が先に帰ることにしよう」
「ええ。恨みっこなしで」
冗談っぽく青島が言うと、室井は苦笑しながら頷いた。
そこまでして決めるようなことでもないのだが、そうでもしないと二人とも帰れそうにない。
室井が頷くのを見て、青島が右手を差し出した。
「んじゃ、いきますよー」
「ああ」
「じゃーんけーん」
ぽんっと青島が言ったのと同時に、室井が嫌な顔をした。
青島がグーで室井がパーだったからだ。
自分の手を恨めしそうに見つめている室井に、青島は吹き出しそうになるのを何とか堪える。
「恨みっこ、なしですよ?」
「・・・分かってる」
また寄ってしまっている眉間に苦笑しつつ、青島は軽く手を上げた。
「じゃあ、また」
「・・・電話する」
「はい」
嬉しそうに笑う青島にようやく諦めたらしい室井は、微笑を浮かべると「じゃあ」と言って背を
向けた。
少しずつ離れていくやけに姿勢の良い後姿を、青島は見送る。
見えなくなるまで、何て乙女なことを思っているわけではないが、もう少し。
せめて、声の届かない距離に行くまで。
なんて、青島が思っていると、ふいに室井が足を止めた。
そして振り返る。
「?」
首を捻っている青島に向かって、足早に戻ってきた。
「室井さん?」
忘れ物か?等と、そんなわけもないのに思っていると、がしっと腕を掴まれる。
「む、室井さん?」
何事か全く把握できていない青島が目を丸くしていると、室井が強張った表情で言った。
「帰りたくないなら、帰らなきゃいいんだ」
「はい?」
「ここからなら、君の家の方が近い。今日は泊めてもらうぞ」
「ええ?」
声を裏がした青島に構わず、室井は掴んだ腕を引っ張って歩き出した。
その表情は未だ強張っているので、恐らく照れているのだろう。
らしくもなく、子供みたいに「帰りたくない」と駄々を捏ねていることが、恥ずかしいのかもし
れない。
照れやな癖に、たまに青島の予想を超えた大胆なことを、言ったりやったりしてくれる。
「明日は俺の家からご出勤ですか?」
「そうなるな」
「着替えないっすよ?」
「下着はコンビニで買う。ワイシャツは君の家で洗う。スーツは同じで構わない」
何故かムキになっている室井が可笑しくて、青島は破顔した。
「室井さん」
「ん?」
「好きですよ〜」
朗らかに言うと、室井が蹴躓いた。
それを見て声を漏らして笑ったため室井に小突かれたが、青島はやっぱり可笑しくて笑ってしまった。
END
(2004.10.16)
目指したのは「東京ラブストーリー」です・・・。
そのはずです・・・(涙)
ただのバカップルです。
「帰れない二人」ではなく、「帰らない二人」の間違いです。
そして、やっぱり室井さんはヘタレです・・・。
こんなものを捧げて申し訳ありません!うらんさま〜(><)