■ 鬼ごっこ・その後(4)
「…青島」
「っ」
長い口付けの後に、室井が見下ろすと青島はキツク閉じていた瞳を開いた。
どこか不安そうな視線が室井を見上げてくる。
約束通りに仕事帰りに青島の家に寄って、軽く酒を飲んだ。
青島の視線に誘われるように口付けて、押し倒した―――のだが。
こうも不安そうな顔をされると、室井はどうしたものかと思う。
もちろん抱きたいのだが、もしかしたら我慢させているのではないかと思うと、続きが出来ない。
青島のシャツのボタンを外そうとしていた手も止まる。
「むろい…さん?」
落ち着かずに視線を泳がせる青島に、室井は軽くキスをする。
そして、かなりの理性と根性を動員させて、身体を離した。
無理強いはしたくない。
大事にしたい。
そういう思いからだったのだが、青島がホッとするどころか悲しそうな顔で室井を見ていたから、室井は困惑する。
「青島?」
「…やっぱり、俺とじゃ、ダメですか?」
それはむしろ室井が聞きたいと思ったが、今にも泣き出しそうな顔をされてそれどころではなくなる。
「青島、何を言って」
「だから、嫌だったんだ」
青島が身体を起こして、少しだけ濡れた頬を乱暴に拭った。
嫌だったというのは自分に触れられることかと、顔色を変えた室井に青島は気がつかない。
室井が青島の腕を掴むと、涙目とぶつかる。
「青島?」
「…俺、女の人じゃないからね。室井さんがしたいと思えなくて、当然ですよね」
「は?」
室井が間抜けた声をあげると、青島がきょとんとした目を向けてくる。
「だから…俺相手じゃ、無理なんでしょ?」
そこで、やっと室井は青島が大きな勘違いをしていることに気が付いた。
室井は青島が無理だと思ったから止めたのだが、青島は室井が青島に反応しないから止めたと思ったのだ。
―無理だったら、誰が男なんか押し倒すんだ。
室井は半ば呆れ気味に思いながら、青島を抱きしめた。
腕の中で青島の身体が強張ったが、もう気にはしない。
「すまないが、」
「……っ」
謝ると、青島の言い分を肯定したと思ったのか、青島の表情が曇る。
室井は青島の眉間に唇を押し当てた。
「無理どころか、やる気満々だったんだが」
素直に言うと、青島がぎょっとして室井を見つめた。
至近距離で見詰め合っているから、我慢できずに青島の唇に軽く口付ける。
それで呆然としていた青島もようやく反応を示す。
カッと頬を染めると、目を白黒させた。
「え?え?あ、だ、だって」
「俺こそ、君が嫌なんだと思ってた」
「まさか!」
「…何か、キツそうだったぞ」
「そ、それは、室井さんが……出来なかったらどうしようかと思ってたんですよ」
「出来ないのに、押し倒さないだろう」
「そうかもしれませんけど、やろうとしたけどたたないっつーこともあるでしょう」
室井は視線を逸らしてつぶやいた。
「……心配無用、なようなんだが」
言われた意味を理解するのに、青島は少しの時間を要した。
そして理解したと同時に更に赤くなる
「あ、あ、そ、そうですか」
「そうなんだ。そこで相談なんだが、青島」
「は、はい?」
「続きをしてもいいだろうか」
青島が嫌がっているわけでも怖がっているわけでもないなら、室井に遠慮する理由はない。
ついでにいえば、これ以上はさすがの室井も我慢の限界である。
青島に自分を受け入れる気があるのなら、是非とも受け入れてもらいたい。
真顔で伺いを立てる室井に、青島は口を開けてポカンとした。
それから、熱を持った顔を室井の肩に埋めて、背中をそっと抱き返してくれる。
「…あんまり期待しないでくださいよ?」
男と寝たことはないからそっちのテクはありませんからと冗談まじりに言われるが、室井はやっぱり真顔で返した。
「相手が君ならそれで充分」
「……それは、どうも」
青島が室井の肩に額を押し付けてくる。
照れくさくて顔を上げられなくなったのだろうが、しがみ付くように抱きつかれて室井の理性はあっさり根を上げた。
青島を再び押し倒して、深く口付ける。
「んっ…っ」
濡れた音を立てて舌を絡めて激しく求める。
息苦しさに青島が涙を零した。
その涙を舌で拭うと、そのまま耳元を掠めて首筋に口付ける。
青島のシャツを開きながら、首筋をキツく吸い上げる。
「ぁ…」
小さく漏れた上ずった声に、室井は堪らなくなっていくつも跡を残す。
「ちょっ…まっ…っ、室井さ…」
掠れた声で制止されても、止まれるわけもない。
開いた胸元に手を滑らせて直に肌に触れると、青島が息を飲んだ。
それに構わずに、室井は鎖骨に吸い付いていた唇を胸元に移す。
女性のように柔らかいそれじゃない。
自分と同じ平たく硬い胸。
なのに、こんなに興奮する。
思わずマジマジと青島の素肌に見入ってしまった室井を、青島がいささか不安そうに見ていた。
この期に及んで、まだ室井が出来ないのではと心配しているのだろうか。
室井は青島を見つめたまま、乳首を舐めた。
その瞬間に青島は、驚きと衝撃で硬直しつつ真っ赤になって叫んだ。
「っ!こ、こっち見ながらしないでくださいよ!」
室井が見つめるものだから、青島の方が首を逸らしてしまった。
その首筋も赤く染まっていて、室井は思わず笑みを漏らした。
―可愛くて、困る。
そう思いながらそれを口に含むと、青島が大きく反応を示した。
恥ずかしいらしいが、感じるらしい。
その反応に気を良くした室井が何度も吸い上げると、青島がたまらない声をあげた。
「…ぁ…む、室井さ…ちょっと、ちょっと待って…」
ふいに青島が両手を伸ばし室井の顔を上げさせる。
室井は少し困った顔で青島にキスを送った。
「すまないが、もう止められない」
素直にそういうと、青島が緊張して少しだけ強張った顔で苦笑した。
「や…俺も、今止められても困ります」
言われて、室井も苦笑する。
それは、そうだ。
二人とももう引けないとこまできていた。
「ええと、…ベッド行きません?」
室井は目を丸くした。
今の今まで、ここがリビングだと忘れていたのだ。
青島に夢中になりすぎな自分に呆れつつ、室井はようやく青島から身体を離した。
青島の手を引いて、その身体を起こしてやる。
「それもそうだな…がっつきすぎで、すまない」
妙な謝罪に、青島はきょとんとして、それから吹き出した。
「大丈夫です。俺もだから」
緊張が少しほぐれたのか、柔らかく微笑まれる。
室井はその綻んだ唇にそっと口付けた。
END
2004.8.31
あとがき
きゃー!本当に恥ずかしいお話だな!(ええ:)
なーんか、結局いちゃいちゃして初夜(?)を迎えただけの話になってしまいましたね。
面白い展開にならず…。
力不足で申し訳ないです(^^;
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