■ 君と初めて


告白をしたのは青島から。
とはいえ、上手くいくと思って告白したわけではない。
一度告白してしまえば、後は諦めるか口説き落とすかのどちらかしか選択肢はない。
青島はどんなに時間をかけてでも落としてやるというくらいの気持ちで告白したのだ。
それでダメだったら諦められるかもしれないが、今の状態で諦めることは考えられなかった。
始まってもいないのに、終わらせられない。
室井にとってはいい迷惑だろうが、自分の気の済むまで付き合ってもらおう。
青島はそう思っていたのだ。
ところが。
「君が構わないなら、俺も構わない」
青島が告白すると室井は目を剥いたものの、そう返事を寄こしたのだ。
驚きすぎたのか表情が幾分硬かったが、返事の内容はYESだった。
それを聞いて青島の方が目を剥いた。
「えーと…俺、付き合ってくださいって言ったんですよ?」
「だから、構わないと返事をした」
「ちょっとそこまで、って意味じゃないですよ?」
「…いくら俺でも、それくらい判る」
眉間に皺を寄せた室井を、青島は呆然と見つめた。
室井が不安げな表情になる。
「断った方が良かったのか?」
「まさか!」
それには即答をする青島。
ダメだろうとは思っていたが、ダメだったらいいなと思っていたわけではもちろんない。
ダメだろうと思っていたからこそ、室井の返事が信じられなく、バカな確認をしてしまったのだ。
室井は苦笑を浮かべた。
「…君に、先を越されたな」
その言葉に、青島はようやく両思いだと悟る。
それで、晴れて二人はお付き合いするに至ったのだ。





「ダーリン、来てるわよ」
すみれが小声で耳打ちするから、デスクで報告書と格闘していた青島は椅子からずり落ちそうになった。
何とか体勢を整えると、すみれを睨む。
「ダ…って、その言い方やめてよ」
薄っすらと頬が赤い。
すみれはニヤリと笑った。
「青島君がダーリンになるわけ?」
「セクハラで訴えてやる」
「こりゃ、失敬。あ、でも、来てるのは本当。署長のところに行ってるわよ」
さっき見かけたのと言われて、青島は嬉しく思ったが顔には出さないように気をつける。
それこそすみれに何を言われるか分かったものじゃない。
告白してから2週間も経っているが、それから室井に会うのは初めてだった。
お互い忙しくて、中々会えないのだ。
そのかわり、電話は2回。
一度目は青島から、二度目は室井から掛けてくれた。
どちらの電話も近況を報告しあうだけの短いものだったが、青島にはすごく嬉しかった。
特別意味のない電話を出来るようになったということは、室井との距離が縮まったという証拠である。
それが、単純に嬉しかった。
「あ、室井さん」
すみれに肘でつつかれて、青島は慌てて顔を上げる。
室井が袴田に連れられて刑事課に入ってくるところだった。
一瞬青島を見て、微妙に強張った顔をした。
照れくさいらしい。
青島はといえば、緩みそうになる表情を隠すために視線を書類に戻す。
だが、すぐに袴田に呼ばれる。
「青島君」
「うぁい!」
焦って妙な返事を返す青島に、袴田は怪訝そうな顔をする。
「どうしたのよ?」
「い、いや、何も」
青島の背後で、すみれが小さく吹き出したが、青島は構っていられない。
「で?なんでしょう?」
気を取り直して先を促すと、袴田は思い出したように室井を見た。
「室井管理官を本庁までお送りして」
「え、あ、はい、ええ、もちろん」
焦ってはいるが、もちろん嫌じゃないので即答する。
青島の様子が不自然だったせいか、袴田はやっぱり怪訝そうな表情である。
それを愛想笑いで誤魔化して、追求されたくない青島はさっさと室井を連れ立って刑事課を出る。
室井はさすがに苦笑していた。


「会うの、久しぶりですね」
助手席に座った室井に笑いかけると、室井も微笑を返してくれる。
「そうだな。仕事中だったのに、悪かったな」
「いえ。報告書書いてるだけだったんで」
「それも仕事だと思うが?」
「そうとも言いますね」
首を竦めると、室井は苦笑した。
「全く……しょうがないな」
「えへへ。どうも苦手で、デスクワーク」
思ったより普通に話せていて、青島はホッとした。
ハンドルを握っている手のひらは、実はちょっと汗ばんでいる。
妙に緊張している自分が、子供みたいで可笑しかった。
室井に悟られるのは恥ずかしいので、何とか隠せているといいなぁと思う。
「青島」
他愛もない雑談が途切れたときに、ふと室井が青島を呼んだ。
「はい?」
視線をちらりと向けると、室井は口を開こうとして再び閉じる。
何かを言いたいらしいが、言い出し難いらしい。
室井と両思いであるという自覚がまだ薄い青島は、「やっぱり付き合えない」とか言われるのではないかと、思わず不穏なことを考えてしまう。
どきどきしながら室井の言葉を待っていると、ようやく踏ん切りがついたのか室井の声がした。
「今日の夜、君の家に行ってもいいか?」
言われて、青島は思わずホッと息を吐いた。
が、すぐに今度は違う動悸に取って代わる。
室井が青島の自宅に遊びにくるのは初めてである。
嬉しくないわけがない。
「もっちろん!」
嬉しさを隠しもしない青島の笑顔に、室井もホッとしたらしい。
穏やかな表情で頷く。
室井も緊張していたのかもしれない。
そんなふうに思うと、青島はそれすら嬉しく感じた。
「良かった。仕事が終わり次第だから、少し遅くなるかもしれないが」
「何時でもいいっすよ〜。待ってますから」
室井の嬉しい申し出のおかげで、本庁に付く頃には青島はすっかり上機嫌だった。
単純な青島に苦笑しながらも、室井もどこか嬉しそうだった。
車から降りて、いつものように礼を言ってくれる。
「ありがとう……じゃあ、今夜」
違うのは約束があること。
青島は照れながら微笑んで、手を振って別れた。





室井は8時過ぎに青島の自宅にやってきた。
軽く飲みながら、青島が作ったご飯を一緒に食べる。
「美味い」
室井が箸を進めながらそう言ってくれるから、青島は笑った。
「本当ですか?良かった!」
料理を作って誰かに食べさせた経験はあまりない。
一人暮らしが長いから簡単なものは作れるが、味の方の自信はあまりなかった。
嬉しいやらホッとするやらで表情が緩む青島に、室井も微笑んでくれる。
「今度は俺が、ご馳走しよう」
「マジっすか?ああ、室井さん、料理なさるんですもんね」
青島に自宅できりたんぽ鍋をご馳走しようとしてくれるくらいだから、料理が出来ないはずはない。
「ああ、これで結構好きなんだ」
「室井さん、手先器用だから、料理美味そう」
「…そうか?」
青島が言うと、室井は不思議そうに自分の手を見た。
口に出して言うのは照れくさいが、青島は室井の手が好きだった。
本人の性格に似ず器用な手は、本人の性格と似て清らかで綺麗だ。
少なくても、青島の目にはそう映る。
室井と一緒になってジッと室井の手を見つめていると、いつの間にか室井は青島を見ていた。
それに気付いて青島が室井に視線を移すと、思いのほか熱っぽい瞳とぶつかる。
やけに動悸が早くなる。
青島が息を飲むと、室井の手が青島の頬に伸びてくる。
それにあわせるように、青島も身体を室井に寄せる。
室井の顔が近づいてくるから、青島も寄り添って瞳を閉じる。
唇が重なる。

・・・いや、ぶつかった。

正確には「歯」が。
がつんと鈍い音がして、二人とも目を丸くする。
そして、慌てて離れた。
一瞬何が起こったのか分からなかったのだ。
なんのことはない。
二人ともが動いたからタイミングを計り損ねて歯をぶつけたのだ。
青島は口元を手で覆うって目を丸くしていたが、やがて堪えきれないというように吹きだした。
「くくっ、あははは!な、何してんでしょうね、俺たち…っ」
腹を抱えだす。
「ガキのファーストキスでもあるまいし…」
笑いを堪えきれない青島を気まずげに見ていたが、室井も堪らず苦笑する。
「笑いすぎだ」
「…っ、そういう室井さんも顔が笑ってますって」
堪らないといった感じで笑い続ける青島に、室井は苦笑したまま手を伸ばしてくる。
「実はちょっと緊張してる」
今度は両手で頬を包まれ、眉間に唇を押し当てられる。
青島は室井の手に触れて、微笑む。
「良かった。俺もです」
そう言うと、今度は瞼にキスされる。
青島はくすぐったさと照れくささを感じたが、今度は動かずに室井が触れてくるのに任せる。
瞼から唇が離れてそっと瞳を開くと、室井が微笑していた。
「好きだ」
室井の気持ちをちゃんと聞いたのはそれが初めてで。
青島は目を閉じることを忘れて、室井の唇を受け入れた。










END


2004.8.1

あとがき


宗助様より17000HITのリクエストを頂きました。
「室青初キッス物語」です。

…おっさん二人の恋愛がこんなに初々しかったら気持ちが悪いですか?(自爆)

シチュエーションは色々考えたのですが…。
キス先行型お付き合いとか(ナニ)
湾岸署(の資料室)で初ちゅーとか。
結局、「初ちゅー=付き合いたて」だろうということで、
恋愛したてのドキドキ感が書きたくなりまして…。

それが、間違いだったのかもしれません;
二人とも緊張しすぎだし、ソワソワしすぎ!(笑)

宗助様、リクエストをありがとうございました!
薄ら寒い話になってしまい申し訳ありません!(汗)



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