■ デート日和
「どこか行きたい」
青島が突然言い出したので、室井は読んでいた新聞から顔をあげた。
夕べ青島の自宅に泊まって、そのまま休日を一緒に過ごしていたのだ。
さっきまで室井の隣で寝そべって雑誌を読み耽っていたはずの青島は、気付けば室井の目の前で胡坐を掻いていた。
新聞に隠れていて気付かなかったらしい。
室井は読むのを諦めて新聞を畳んだ。
「構わないが、突然だな」
「だって、見てくださいよ」
青島が指差したのは、窓の外。
ここ数日にないくらいの晴天だ。
眩しくて、室井は少しだけ目を細めた。
「良い天気だな」
「ええ。出かけたくなりません?」
単純と思って吹き出しそうになるが、なんとか堪える。
膨れられるからだ。
「室井さん?」
「いや……いいな、出かけるか」
室井自身はどちらでも構わなかった。
このまま二人でゴロゴロしているのも、晴天に誘われて外出するのも。
外出を選んだのは、単に青島が嬉しそうにしているからというだけのことだ。
「良かった!」
更に青島が嬉しそうに笑う。
それを見て外出することにして良かったな、などと思った室井は親ばかならぬ青島ばかだろう。
それを自覚しつつ、室井は苦笑した。
「それで、どこに行きたいんだ?」
「ん?えーと、うーん…」
聞かれてから考える辺りが、青島らしいといえば青島らしい。
青島が考え込んでいる間、室井は大人しく待っている。
折角だから今日は好きなだけ青島に付き合おうと思ったのだ。
青島が何か思いついたらしく手を打った。
「温泉!」
「……」
「温泉行きたいです。日帰り出来るところで良いですから」
室井は眉間に皺を寄せた。
怒っているのではなく、困っているのだ。
晴天は関係あるのか?と聞きたくなったが、それよりも大事なことを青島に伝えなければならなかった。
「青島」
「あ、イヤでした?」
「いや、そうじゃなくて…」
「…?」
きょとんとした青島に、室井は何度か躊躇ってから、ようやく口を開いた。
「……しばらく、人前で裸にならないでくれ」
「は?」
室井の突拍子もないお願いに、青島は目を丸くして聞き返してきた。
妙な事を言っている自覚は室井にだって充分ある。
だが、言わないわけにはいかないのだ。
「室井さん?それは、どういう…?」
「……あ」
「あ?」
「痕、が」
「あと?」
「だから、昨日の」
…………。
見詰め合ったまま、数秒間の沈黙。
そしてやっと意味が通じたらしい。
青島が目に見えて赤面した。
「あ、ああ、そうか。そうですか。そ、そうですね…」
何が言いたいのか分からないが、動揺していることだけははっきりわかる。
室井はいたたまれなくなり、なんとなく謝罪した。
「すまない」
「いえ、謝ってもらうようなことじゃないっすけどね」
「…そう言ってもらえると助かる」
「…そうですか」
妙にぎこちない会話を交しながら、二人は目を合わせた。
そしてどちらからともなく吹き出す。
「前もって今日の予定を決めておけば良かったですね」
「そうだな。…何か他にないか?」
室井が苦笑して尋ねると、青島は「う〜ん」と考え込む。
そして、窓の外を見つめる。
何か見えるのだろうか、と室井が視線を窓に向けようとした時。
「あ」
青島が何かを思いついたらしく、ニッコリ笑った。
「こんなとこで良かったのか?」
室井は芝に座って、隣の青島に尋ねた。
青島はというと、芝の上に直に横になっている。
結局青島が温泉の代わりに提案したのは、公園で日向ぼっこというものだった。
折角の晴天だからという理由には見合っているが、あまりに質素なお願いだ。
その辺の公園でも構わないと青島は言ったが、折角だからと室井が車で小一時間の自然公園まで連れてきたのだ。
見下ろす室井に、笑顔を向けてくれる。
「ええ」
「…家でしてることを外でしているだけじゃないのか?」
室井の指摘が可笑しかったのか、青島は声を立てて笑った。
「そうですね。でも、すごく贅沢な気がしますよ」
「そうか?…君がいいなら、それで良いんだが」
「充分!」
ニッコリ笑った青島に、室井が苦笑した。
青島も安上がりだが自分も相当安上がりだと、室井は思う。
晴天を見上げながら芝に横になるだけで充分だと言う青島と、その青島を見ているだけで幸せな気分になっている自分。
どっちもどっちだ。
「室井さん」
「ん?」
「横になりません?気持ち良いっすよ」
そう誘われれば、その通りなような気がする。
室井もやっぱり単純なのだ。
逆らわずに室井も青島の隣に横になる。
真っ青な空。
どこか懐かしい芝生の匂い。
ほどよく吹く優しい風。
確かに気持ちが良い。
青島はいつも室井に室井の見ている世界と違う世界を見せてくれる。
日頃の忙しさに追われて、見落としがちな小さな幸せ。
―青島が自分にくれるような幸せを、自分も青島にあげられているだろうか。
ふと室井が思った瞬間、室井の顔の上に影ができる。
間近に迫った青島の顔。
反射的に目をつぶると、一瞬だけ重ねられた唇。
室井が目を開けると、いたずらっぽく笑う青島と目があった。
「青島?」
「いや、何か、幸せだったから」
そう言って笑う青島に、室井は目を丸くした。
「幸せ倍増」
青空を背に破顔する青島。
室井は無意識に青島の後頭部に手を回した。
そのまま引き寄せると、もう一度唇を重ねた。
君がくれる幸せと同じ幸せは返せないかもしれない。
それでも君は幸せだと笑ってくれる。
二人が一緒にいることの意味は、きっとそういうこと。
「俺も幸せ倍増だ」
下から青島を見上げて、室井も笑った。
END
2004.6.1
あとがき
那智様から6666HITのリクエストを頂きました。
「二人のラブラブデート話」だったのですが…。
公園で日向ぼっこ。
こ、これって、デートでしょうか?(汗)
お年寄りのデートのようになってしまいました(滝汗)
私が想像する二人のデートって、お部屋デートばかりなんですよね〜。
たまに外に出すと、公園で日向ぼっこ(笑)
ラブラブというリクだけはクリアしている気がしないでもないのですが(笑)
そこだけじゃ、ダメダメです…。
リクエストくださった那智様、ありがとうございました!
ご期待に添えませんでしたら、大変申し訳ありません・・・。
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