■ 嫉妬
別に今更気にするようなことじゃない。
青島は目の前で言い争っているキャリア二人を見ながらぼんやりと思う。
「その性格をどうにかしろ、一倉」
「生憎だが、この歳になると早々性格なんぞ変えられなくてね」
「開き直るな」
「お前こそ、その融通のきかない性格をなんとかしろ」
仲が悪いわけでは決してない。
これだけ言い争っていてもケンカ別れすることがないのだ。
仲が悪いわけがない。
むしろ、良いのだ。
「青島だって、そう思ってるだろうよ」
「青島をお前みたいないい加減な人間と一緒にするな」
「堅苦しいのを好むタイプじゃないだろう」
「俺は別に堅苦しくない。そんなことより、お前が青島の性格について語るな」
「独占欲が強い男は嫌われるぞ。なぁ、青島?」
室井と一倉が二人きりでいるときにも、揉めたりするのだろうか。
そうであれば険悪なムードになって、仲違いしてもおかしくないだろう。
青島が二人の言い合いを目の当たりにするのは良くあることだが、ケンカしていて口もきかないなんていうのは見たことが無かった。
要するに、いつもこうしてじゃれあっているだけなのである。
それがなんとなく面白くない。
いつもはあまり気にしないのだが、今日に限ってそれが酷く気になった。
気になりだすと、止まらない。
「青島?」
「どうかしたか?」
呼びかけに何の反応も示さない青島に、室井も一倉も怪訝そうに青島を見てくる。
それに気付いて青島は慌てて返事をした。
「あ、いや、仲良いなぁと思って」
そして慌てていたせいか、ぼろっと本音を零す。
しまったと思ったのは青島だけで、室井と一倉はお互いに眉を寄せた。
「「どこがだ」」
二人仲良くハモって、顰め面を見合わせている。
―息もぴったりじゃないか。
青島はそう思ったが、今度はなんとか飲み込む。
「あははは。ケンカするほど仲が良いって言うじゃないですか」
「カンベンしてくれ…」
額に手を当てた室井に、一倉は何かを思いついたようでニヤリと笑った。
「じゃあ、あれか」
「はい?」
「いつも仲の良いお前らよりも、俺と室井の方が仲良しってことか」
言われて青島は思わず言葉に詰まる。
それはいつもの一倉のからかい方で、いつもの青島だったら呆れながら突っ込みを入れていた。
一倉もそのつもりだったようで、固まってしまった青島に訝しげである。
「一倉、バカなことを言うな…青島?」
一倉の戯言に眉を顰めつつも、室井は様子のおかしい青島が気になったようだ。
青島はハッとして首を横に振る。
「あ、ああ、ええと、何でもないです」
そう答えつつ、青島の表情は晴れない。
曖昧な笑顔を浮かべる青島に、室井よりも勘の鋭い一倉がいくらか驚いた表情を浮かべた。
「青島、お前」
「嫉妬してるのか?」
「!」
「!!?」
青島の頬がカッと赤くなった。
なるべく意識しないようにしていたが、青島の感情はまさにそれだった。
しかもそれを当事者に指摘されるなんて最悪である。
―だから勘のいい男は嫌なんだ!
青島はそう思いながら、すぐに席を立った。
「すいません、俺先に帰ります」
「あ、青島!?」
一人ついていけない室井が青島の腕を掴もうとした。
が、青島はそれを交わして、とっとと出て行ってしまった。
取り残された室井は困惑した表情で一倉を見る。
一倉は苦笑していた。
「どうやら、俺らが仲良く見えて嫉妬したらしいな」
不本意極まりないのだろう。
室井が眉間に皺を寄せる。
一倉はそれを見て楽しそうに笑った。
「可愛いとこあるじゃないか」
「一倉」
「追わなくていいのか?」
「…言われるまでもない」
明らかに楽しんでる一倉に文句をつけてやりたいが、それは後回しだ。
室井は一倉を一睨みすると、さっさと青島の後を追った。
スタスタと早歩きをする青島の顔は真っ赤だった。
怒っているわけではなく、死ぬほど恥ずかしかったのだ。
嫉妬?
誰に?
一倉に?
室井が女性とイチャイチャしていたわけでもあるまいし。
友人にまで嫉妬するなんてどうかしている。
青島は混乱する頭で、グルグルと考え込む。
「青島!」
後ろから声をかけられて、振り返らなくても室井だと分かるから足を止めた。
勝手に帰って来てしまったことは謝らなければならないと思ったし、それから一倉に対する嫉妬についても言い訳をしなければならないと思ったからだ。
青島が振り返ると、室井はすぐ追いついた。
「すいません。いきなり席を立って」
謝る青島に、室井は少し困惑気味だ。
「いや、それはいいのだが…」
何をどう言ったら良いのか分からないのだろう。
青島だって何をどう説明したら良いか分からない。
だけど女々しく嫉妬をしたなんて、室井には思われたくなかった。
「室井さんと一倉さんの仲を疑ったことなんか一度もないです」
それは嘘じゃないし、今だって疑ってはいない。
でも一倉の指摘通り、青島が嫉妬をしたのは事実だった。
「室井さんのことを信じてないわけじゃないんです」
上手く気持ちを説明できずに、青島は焦る。
「おかしいな、いつもは気にしたことなんかないんですけど…」
視線を室井から逸らした。
とても正面からは見られない。
「青島」
しかし室井にそっと手を握られて、青島は伏せがちだった頭を上げた。
見ると、室井が苦笑している。
「嬉しいなんて言ったら、怒るか?」
そう呟かれて、青島は目を丸くした。
青島の嫉妬が嬉しかったと言っているのだ、室井は。
そう呑み込むと、青島は更に赤面した。
耳まで熱くなるのを感じる。
「君が不快な思いをしたのなら申し訳ないのだが、正直なところ凄く嬉しい」
優しく微笑まれては、青島もそれ以上言い訳しようという気にはならなかった。
青島は一倉にまで嫉妬した自分が恥ずかしかったのであって、それを室井が嬉しいと言ってくれるのならば、気にすることはないのだろう。
苦笑を浮かべて頭を掻いた。
「ひどいなぁ。そんなに喜ばないでくださいよ」
「すまない。……ただ、相手が一倉だということだけが不本意だ」
一瞬だけ眉を寄せた室井に、青島が小さく吹き出した。
やはり室井と一倉は凄く仲が良い。
だけど、どういうわけか先程のような嫉妬心は湧いてこない。
現金なものだと思う。
青島は軽く室井の手を握り返した。
「次、一倉さんに会うのが怖いです。またからかわれちゃうな…」
照れくさそうに言うと、室井は笑いながら意外なことを言った。
「気にするな。何だったら、見せつけてやればいい」
青島は破顔した。
END
2004.5.16
あとがき
web拍手にて5000HITお礼リクエストをして頂きました。
「一倉さんがらみのお話」ということでした。
からんではいますが、ちょっと出番少なかったですね(汗)
一倉さんにしては控えめだったかもです。
リクしてくださった方、物足りなかったら申し訳ありませんでした!
ヤキモチを焼く青島君は初めてかな…。
何かもっと複雑なお話が書けないものかと、自分でも思います。
妬いてはいますが、あっさり青島君。
もっと「俺の室井さんだぞ!」っていうのをアピールする青島君も書いてみたいです。
このお話。どこで何をしているか一切触れてませんね(汗)
読み返して気付きました…。
template : A Moveable Feast