without end(11)


出勤した青島は、刑事課に入ることもなく署長室に呼ばれた。
エントランスで張っていた緒方に、真っ直ぐ行けと言われたからだ。
新城が待っていると言われれば、嫌だとは言えない。
用件は室井のことだろう。
新城と会ったところで、青島には何も話すことはない。
報告できることが何もないのだ。
だが、無視もできない。
精々嫌みを言われるだけだと分かっているから、足取りは重たかった。

ノックをして失礼しますとドアを開けると、中には新城の他に神田と秋山がいた。
神田と秋山は大抵セットで、どこに行くにも一緒にいる。
二人で新城のご機嫌を伺っていたようで、青島を見てあからさまにホッとしていた。
会話の弾むはずのない新城の接待に気詰まりだったのだろう。
尤も、気詰まりだったのはお互い様だったようで、新城はすぐに席を立った。
「後は、青島と直接話します」
形ばかり軽く頭を下げ二人に挨拶をすると、もう用はないとばかり青島の脇をすり抜け署長室を出ていく。
「青島君、くれぐれも失礼のないようにね!」
神田がそう言うと、秋山がいつものように何も考えずに賛同していた。
青島は適当に二人に手を振り、肩を竦めてドアを閉めた。
すぐに新城を追う。
「新城さん、あの」
並んで声を掛けた。
「室井さんはどうしてる」
「変わりません、相変わらずです」
何度聞かれても、同じ報告しかできないのが歯痒い。
新城は足を止めてちらりと青島に視線を投げた。
「いい加減に、なんとかしないとな」
「そんなことを言われても」
「一年も二年も休職してもらったら困るんだよ」
「…そんなこと、言われても」
青島にはそれしか言えなかった。
青島だって、室井には記憶を取り戻して欲しい。
仕事に復帰してもらいたかった。
だけど、記憶を取り戻す方法など、青島に分かるわけがなかった。
医者ですら様子をみるしかないと匙を投げているのだから、当然だった。
「このまま記憶が戻らなければ、いずれ室井さんは籍を失うんだぞ」
新城が腕を組み、青島を睨むように見上げた。
「分かってますよ、そんなことは」
新城に言われるまでもない。
休職できる期間は限られているし、最悪一生記憶が戻らない可能性だってあった。
恋人としての青島は、例えそうなったとしても室井から離れるつもりはない。
室井が赦してくれるのなら、生涯傍にいたいと願っている。
だが、警察官としての青島は、警察官としての室井を誰よりも必要としている。
これまで室井は青島にとって、唯一無二の同志であり、大切な恋人だった。
警察官としての室井と恋人としての室井、この二つを完全に分けて考えることなど青島には出来そうに無かった。
不可抗力にも室井が退職を余儀なくされた時、青島がそれを理由に室井との別れを選ぶことはないはずだ。
青島にとって室井という人間の魅力は、決して熱い信念や折れない心の強さにばかりあるわけではない。
だけど、もうあの室井に会えないとなると、青島の喪失感は耐え難いものだった。
記憶を無くした室井も生真面目で不器用で優しくて、眉間に皺を寄せる癖も相変わらずで、確かに青島の知る室井だった。
その彼を、青島は変わらずに想っている。
それでも、と思う。
帰ってきてほしいと、思わずにはいられなかった。
「なんとかしろ」
新城が涼しい顔で無茶を言う。
いつものこととは、今の青島には流せなかった。
「どうやってですか?できるものなら、とっくにそうしてる」
口調がきつくなるが、自分を抑えられなくなっていた。
室井には焦るなと笑って励ましているが、本当は青島だって焦っているのだ。
今の室井を愛しく思うたび、前の室井が遠ざかっていくようで怖かった。
「頭でも殴らせてもらえ」
新城が平坦に言った。
前にも誰かに言われたが、新城は冗談で言っているわけではなさそうだったし、冗談だったとしても、今の青島には聞き流せない。
苛ついたように髪を掻き毟る。
「できるわけないでしょ、そんなこと」
「衝撃で失くした記憶なら、衝撃で元に戻ることもあるんじゃないか」
「適当なこと言わないでくださいよ、これ以上何か失くしたらどうするんですか」
「きれいさっぱり記憶を失くしてるあの人が、これ以上何を失くしたところで困るもんか」
「ありますよ、あるに決まってるだろう」
青島言い捨てた。
「失くなって困るものくらい、今の室井さんにだってあるんだ」
記憶を取り戻して欲しいと切実に思ってはいるが、記憶を失くした今の室井に対してだって青島は堪らない愛情がある。
まっさらな気持ちで自分を受け入れ、記憶がないことに苦しみながらも今を一緒に生きようとしてくれている室井に、失くすものなどないなどと言えるわけがなかった。
青島は恨みがましく睨むように新城を見つめたが、返ってきた眼差しは静かだった。
怒るでも責めるでもない眼差しはどこまでも冷静で、青島は詰めていた息を吐いた。
「…すいません」
怒鳴ったことを詫びたが、新城からは嫌みも返ってこなかった。
「そういう顔をするくらいなら、頭でもなんでも殴らせてもらえと言ってるんだ」
青島は思わず頬を撫ぜた。
一体どんな顔をしているのか自分では分からなかったが、きっと情けない顔だろう。
「別に殴らなくてもいいが、お前にしかできないこともあるんじゃないのか」
「…どういう、意味ですか」
「あの人も、お前の与える刺激になら、何か反応するかもしれない」
室井を馬鹿にするような口調だったが、どういうわけかそこに悪意は感じられなかった。
ただ、どういう意図で言われているのかは、良く分からなかった。
深読みすれば、出来なくもなかった。
青島と室井の関係に、何か気付いているのだろうか。
だからこそ、室井を青島に預けているのだろうか。
自分から突っ込んで確認してみようとは思わなかった。
これ以上、今は頭を使いたくなかった。
ただ、新城がらしくもなく励まそうとしていることだけは分かる。
そして、新城も室井の早期の職場復帰を望んでいるということも良く分かった。
お前がなんとかしろというのは、新城なりの叱咤激励だろう。
「なら、また刺されてみようかな」
新城が冷静な分、青島も落ち着きを取り戻して、冗談も言えた。
新城が鼻で笑う。
「それもいいかもな」
「冗談ですよ」
「死なない程度に、好きにやってみろ」
「そんな無責任な」
「責任を取るのは室井さんの仕事だろ、お前に関しては全部な」
「…それも、無茶な言い分ですよ」
苦笑した青島にまた鼻で笑って、新城は歩き出した。
「本庁に帰る。車を出せ」
青島は素直に返事をして追い掛けた。




―俺が頭を打ってどうする。
病院を出た青島は、ひっそりと溜め息を吐いた。
新城を送った後、傷害事件の通報を受けて現場に直行した青島は、被疑者と格闘した結果、地面に被疑者ともども転がり頭を強かに打ってしまい、しばらく意識を飛ばしてしまったため病院に運ばれた。
検査をした結果は異常なく、後頭部に小さな裂傷が出来たくらいで、大きな怪我は無かった。
額から後頭部にかけて、包帯が巻いてある。
すっかり帰宅が遅くなってしまったが、室井には袴田から連絡がいっているらしい。
変なことを言っていないといいなと思う。
心配はかけたくなかった。
心配をかけたくなかったが、こんななりで帰宅したら、それも無理な話かもしれないと思い、青島はまた溜め息を吐いた。

玄関を開けた青島は、待ち構えていたようにリビングから飛び出してきた室井に驚いた。
待ち構えていたようにというか、間違いなく待ち構えていたのだろう。
青島はとっさに愛想笑いを浮かべた。
「た、ただいま〜」
室井の眉間の皺が深い。
「怪我の具合は」
「あ、大丈夫です、ちょっと切っただけでした」
「中身は」
乱暴な聞き方が可笑しくて笑いそうになったが、笑ったら益々室井の機嫌が低下する恐れがあったから、なんとか堪える。
「検査しましたけど、問題なしです。大丈夫ですよ」
にこりと笑って言えば、室井はむっつりとしたまま、曖昧に頷いた。
「そうか」
良かったと小さく呟いたが、それで機嫌が良くなったわけではないようで、青島から視線を反らすと、リビングに戻って行った。
これはかなり心配をかけたなと思い、青島は内心で溜め息を吐きながら室井の後に続いた。
「すいません、心配かけて」
「そんなことはどうでもいい」
「以後、気を付けますから」
「……」
ひょいっと顔を覗きこむが、相変わらず表情は険しい。
今度は俺が頭打っちゃいましたね、などとふざけても場が和むとは到底思えなかったから、飲み込んだ。
青島はなんとなく取りつく島がない室井に困った。
「室井さん、怒ってます?」
「俺が怒るのは、お門違いだろう」
言い捨てられると、少し傷付く。
怒らせるのは本意ではないが、無関係だと思われるくらいなら怒られた方がいい。
だから、室井は現に怒っているのだ。
つまり、お門違いだと思っているわけでもないはずだ。
「ねえ、室井さん…」
どうやって機嫌をとろうか、その青島の考えを見透かしたように、室井が青島を睨んだ。
青島は怯んだが、今室井が怒っているのは青島を大事に想うからだと分かっているから、目を逸らさずに室井と向き合った。
だが、青島が口を開くよりさきに、室井が吐き捨てた。
「警察官なんか辞めてしまえ」
青島は目を剥いた。
室井の口から出たとは思えない言葉だった。
室井なら絶対に言わない。
記憶を失う前の室井ならば。
「この間、ナイフで切られたかと思えば、今度は頭を打って病院に運ばれる…怪我の多い仕事なんか普通じゃないだろう」
確かに、室井が記憶を失くしてからの短期間で、青島が怪我をするのは二度目だった。
腰の傷も過去の事件で負ったものだとバレている。
しかも今度は頭を打っており、事故の衝撃で記憶を失くした室井には余計に思うところがあっただろう。
それは理解できるが、それにしたって。
「今に大怪我しないとは限らないじゃないか、そんな仕事辞めてしまえ」
「アンタが言うなよっ」
青島は思わず声を荒げた。
目を剥く室井を睨み返せば、目の奥が熱くなった。
なんとか堪えるが、絞り出した声は震えていた。
「警察官辞めろなんて、アンタだけは言わないでよ…」
室井の口から、一番聞きたくなかった言葉だった。
室井の表情が歪んだ。
怒りよりも痛みに耐えるように、眉を寄せて歯を食いしばっている。
痛いのはこちらの方だと思った青島は、室井が何に痛みを感じているかなどまるで分かっていなかった。
「それは、俺に言っているのか」
室井の声が低く重く響く。
正確な意味が理解できず、青島が怪訝な眼差しを投げると、室井が睨むように青島を見返した。
「俺に言っているのか?それとも、記憶を失くす前の俺に言っているのか?」
青島には咄嗟に返す言葉が無かった。
青島にとっては同じことだが、室井にとっては違うのだ。
室井には記憶を失くす前の自分など、見知らぬ他人である。
青島の言葉が前の室井に向けられていたとしたら、不愉快かもしれない。
「俺にとっては室井さんは室井さんです。分けてなんて考えてない」
「だが、君の知る前の俺は俺には分からない。俺の中にはそんな男は存在してない」
「そんなことない、アンタは確かに」
青島は両腕で室井の肩を掴んだ。
正面から見合うのを嫌うように、室井が青島の腕を振り払い顔を背けた。
「結局、君が好きなのは俺じゃない」
青島は自分がカッとなるのが分かった。
握った拳が揺れる。
室井を殴るのが怖くて、咄嗟にソファに転がっていたクッションを掴んだ。
それで、思い切り室井の顔面を叩いた。
痛みはそれほどでもないだろうが、さすがに驚いたようで室井が抵抗を見せるが、青島は構わずクッションでバシバシと叩いた。
「青島、よせ…っ」
「俺が好きなのはアンタだよ!アンタ以外誰がいるって言うんだ!」
室井も怒鳴り返してくる。
「お前が好きなのは、記憶を無くす前の俺だろう!」
「好きだよ、当たり前だろう!」
叫びながらも、青島は室井にクッションをぶつけるのを止めなかった。
青島の勢いに圧されて、室井が壁際に追い詰められていくが、それでも青島は退かなかった。
「記憶を失くす前のアンタに惚れたんだから、好きに決まってるだろう」
「そらみろ」
「でも、今のアンタだって好きだよ。室井さんだもん、俺にとってはどっちだって一緒だ」
「違う、全然違う、俺は君の知る室井慎次じゃない!」
「じゃあ!アンタは誰だって言うんだ!」
青島はクッションを捨てると、室井の胸ぐらを掴んだ。
室井はしばらく呆然としていたが、やがて呻くように呟いた。
「分からない…俺は、何なんだ…」
途方に暮れたような声に、青島の目尻に涙が滲む。
「もういいよ、名前なんかどうでもいい」
青島は乱暴に室井の胸元に額を押し付けた。
「アンタは、生真面目で不器用で無愛想で、融通が利かなくて唐変木で」
言っていて、我ながら少し可笑しくて、微かに笑う。
ちっとも誉めていない。
だけど、それは確かに愛しい男の特徴だった。
「厳しくて、正しくて、優しい…俺の愛した人ですよ」
それじゃ駄目なのかと問えば、少しの間の後、室井の手が青島の頭に触れた。
「いや…いや、充分だ…お前に愛されているのであれば、それで…」
掠れて震えた声に反応するように、青島は顔を上げて室井に触れるだけのキスをした。
室井は少し気まずそうだったが、キスを返して寄越した。
「すまなかった、酷いことを言った」
「本当ですよ、こんなに好きなのに」
わざとに拗ねたように言って鼻を啜れば、室井は目を細め小さく嘆息した。
君には叶わないなと囁き、そっと青島の後頭部を撫ぜる。
「痛まないか?」
「平気ですよ。つーか、興奮してて忘れてました」
「そうか、怪我人を興奮させてすまない」
変な謝罪だなと思ったが、室井は至って真顔だった。
本当に生真面目で律儀な男だ。
これのどこが室井ではないと言うのか。
青島は堪らない気持ちになり、室井に力いっぱい抱き付いて深く唇を合わせた。
勢いが良すぎて、ゴンっと大きな音を立てて室井の後頭部が強かに壁にぶつかっていたのだが、夢中になっていた青島は全く気付いていなかった。
一瞬意識を飛ばした室井がキスに応えないことにも気付かないで、青島は室井の口内を愛撫し貪った。
「好きだ、好きだよ、室井さん」
キスの合間に繰り返す。
もう二度と、室井が寂しいことを言わないように、こんなに愛しく想う気持ちを疑わせないように、祈るように口付ける。
「好きですよ、どんな室井さんだって、俺にとっては全部愛しい」
もういいと思った。
最悪、室井の記憶が戻らないなら、戻らないままこの人を愛そう。
現場で頑張ると室井に約束した。
それだけは自分一人でも果たせる約束だ。
室井が青島にくれた約束は、くれたということだけで充分ではないか。
一緒に生きられるのなら、もうそれだけでいい。
この時の青島は、本気でそう思っていた。
「記憶なんかなくたっていいです」
室井が目を剥いた。
「今だってこれからだって、どんな室井さんだって、愛してますよ」
笑って青島が告げれば、されるがままになっていた室井が唐突に動いた。
深く唇を合わせながら、青島を床に押し倒してくる。
激しい口付けにぞくぞくしながら、青島が首に回そうと腕を伸ばすと、室井がまた唐突に顔を上げた。
「青島」
腕を空中に浮かせたまま、室井に見下ろされて首を傾げた。
「はい?」
「熱烈な告白の後に大変申し訳ないのだが」
「はあ…」
室井はもう一度キスをすると、小さく笑った。
「どうやら記憶が戻ったようだ」
青島の目が絵に描いたように点になった。
「…………はあっ?」
間の抜けた顔で間の抜けた声を上げてしまったとしても、仕方がないだろう。
室井は青島の心中を思ってか申し訳なさそうに眉を寄せたが、口許は僅かに綻んでいた。
「全部思い出した」
「は、え、なに?」
「俺は随分仕事をさぼってしまったようだな」
仕事が滞っているなと、大事なことではあれどこの場にはそぐわない、ある意味では大変のん気な感想を漏らしている室井に、青島はまともな言葉が出て来ない。
パクパクと口を開けたり閉じたりするしか出来ない青島に、今度こそはっきりと申し訳なさそうにしながら、室井は宥めるようにキスをした。
「俺も愛してる」
次の瞬間、青島は思いつく限りの罵声を浴びせながら、室井にしがみついた。
耳に届く謝罪と愛の言葉に、青島はきつく目を閉じたが、溢れ出るものは止まらなかった。


しばらくは二人とも言葉にならず、何かを埋めるようにひたすら抱き締め合っていたが、少し落ち着きを取り戻すと、床に座り直してちゃんと向き直った。
瞼が重くてどうにも視線を合わせ辛かったが、合わせることで安堵もできた。
柔らかい眼差しに不安や焦燥はなく、ただ愛しげに青島を見つめている。
随分な愛の告白の挙句泣いてすがったものだから大層気恥かしいが、それを差し引いてもとにかく今は嬉しかった。
「それじゃあ、記憶がなかった間のこともちゃんと覚えてるんですか」
「ああ、恐らくは」
しばらくの間記憶を失くしていたくらいだから、今の自分に欠けた記憶があるのかないのかに自信が持てないようだった。
欠けていたところで室井には分からないのだから、無理もない。
それでも、二人が再び恋人になった経緯も全て覚えていたくらいだから、概ね揃っているのかもしれない。
「そこは忘れてくれてもいいのに」
青島が気恥ずかしさからそう言ったが、室井は微かに微笑んだだけでからかったりはしなかった。
室井が黙って手を伸ばしてくる。
その手を握り返し、物足りないとばかりに強く力を込めた。
室井からもそれが返ってくる。
「すまなかった」
「もう謝らないでいいですよ、室井さんが悪いわけじゃない」
散々罵倒したばかりで取り繕っても今更かなと思いつつ、青島は苦笑した。
青島も混乱していたのだということで許してもらいたい。
落ち着いた今は、室井に文句の言葉など何も浮かばない。
事の発端は不可抗力の事故で、室井には何の非もなかった。
それに、寂しかったのも不安だったのも青島だけではない。
一人で耐えていたわけではないことは、良く分かっている。
青島にはずっと室井がいた。
記憶を失くして戸惑い苦しみながら、自分を想って愛してくれた室井がいた。
「嬉しかった」
「え?」
「記憶なんかなくたっていいと、どんな俺でもいいと…凄く嬉しかった」
面と向かって自身の告白を繰り返されればさすがに恥ずかしくて目を伏せたが、青島はやんわりと笑って握りしめた手を見つめていた。
「俺は馬鹿だな、君に愛されていないと思うなど」
記憶を失くしていた間のことを覚えているということは、自身が青島の気持ちを疑ったことも覚えているのだろう。
青島は目を伏せたまま声を漏らして笑った。
「そうですよ、俺がこの世で室井さんより想ってる人なんかいないのに」
言いながら、喜びでテンションが可笑しくなっているのかもしれないなと、ぼんやりと思う。
さっきから青島が並べるのは、普段は言わないような愛の言葉ばかりだ。
室井のテンションも、少しおかしいのかもしれない。
「自分で自分に嫉妬するなど、初めての経験だ」
全く馬鹿だなと反省する室井が可笑しくて、青島は今度は顔をあげて笑った。
室井は目を細めるとすぐに腕を引き、青島を抱き寄せた。
そのまま押し倒されて、室井の指が青島のネクタイを解いた。
「もっと笑ってくれ」
体勢と合わない言葉に、青島が目でどういう意味かと問いかけた。
「久しぶりに君の笑った顔を見た気がしたんだ」
もっと見たいと囁きながら、青島の首筋に吸いつきシャツのボタンを外していく。
青島は一度目を閉じて感情の波をやり過ごすと、室井の首に腕を回した。
「望むところですけど、それならとりあえず少し手を止めません?」
青島の服を剥いでいく男にそう言ってみたが、室井は真顔で首を傾げた。
「それは難しいな」
難しいのかと思うと、青島は自然と爆笑していた。
脱がされながら色気のない笑い声を漏らす青島に構わず、室井は嬉しそうにキスを寄越した。
ああ新城さんに連絡しなくちゃな、一瞬だけそう思ったが、思っただけだった。









END

2015.6.21

あとがき

まずは謝罪を!
リクとちょっと違う結末になってしまいました;
誰かに殴られて…ということだったのですが、青島君がクッションで殴っては
いますが結局壁にぶつかってということになってしまいました。
クッションで殴った時点で記憶を戻してしてしまうと、
記憶を失くした状態の室井さんは青島君が好きなのは自分ではないと思ったまま
記憶を取り戻してしまうので、それだと室井さんが可哀想だなあと思いまして。
でも、結局室井さんは記憶を失くした間のことも覚えているので、
どちらでも一緒だったのか?な?
自分で書いていても良く分かりませんが(笑)

リクをくださった方、あまりリクエストに添えていませんでしたら、
申し訳ありませんでした!
素敵リクエストをありがとうございました!

長々とお付き合いくださった皆様も、ありがとうございましたv


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