■ 触って
室井はソファーに座って、小説を読んでいた。
随分前に購入するだけしておいて、読みきる時間がとれずに放置してあった本の一つだ。
たまの休日だから室井の自宅でのんびりしようということになったため、溜まった本を読むことにしたのだ。
読書に勤しむ室井の横では、青島が真剣にテレビを見ていた。
ソファーで胡坐を掻き、時々煙草を口にしている。
数少ない休日が重なれば青島と過ごすことが多いが、たまに何をするでもなく一緒にいるだけの時がある。
一緒に出かけたり一緒に何かをすることは、もちろん楽しいしとても幸せだ。
だけどこうして一緒にいるだけでお互いが好きなことをしている時間も、室井には大事だった。
何かに集中している時にふと我に帰ると、傍に青島がいる。
そういう瞬間に、言いようの無い幸せを感じたりするからだ。
室井は読んでいた小説から視線を逸らして青島をちらりと見やる。
ちょっと覗いて見ただけだったのだが、視線に気付いた青島が室井を見つめ返してきた。
「?」
無言で首を傾げられる。
どうかしたのか?と聞いているようだ。
室井は小さく笑って首を横に振った。
それだけで納得したのか、青島も笑みを返して寄こし再びテレビに視線を戻す。
室井は緩みそうになる表情を本で隠した。
小一時間も過ぎた頃。
小説も半ばまで進み夢中で読んでいた室井は、ふと顔を上げた。
そして自分の手を見た。
右手は小説を開いて持っている。
室井が見たのは空いているはずの左手だ。
ソファーに投げ出していた左手。
それに重なっているもう一つの手。
青島の手だ。
きょとんとしたまま、室井は繋がれた手と青島の顔を交互に見比べた。
青島は相変わらずテレビに向き合ったままだ。
「…青島」
「はい?」
室井が声を掛けても、青島はテレビから視線を離さない。
返事だけが返ってきて、室井は苦笑した。
そしてもう一度名前を呼ぶ。
「青島」
ちょっと遅れて、今度は振り返った。
「はい?」
「これは?」
そう言って、室井は繋がれた手を持ち上げた。
青島が肩を竦める。
「邪魔でした?」
「いや、本は片手でも読めるが…」
「そうですか。それは、良かった」
笑顔が返ってきたが、室井が確認したかったことはそんなことではなくて。
「そうじゃなくて」
「はい?」
「これの意味を聞いているのだが」
持ち上げた手を振ってみせる。
青島が再び肩を竦めた。
「意味って…、恋人繋ぎってヤツですね」
繋がれた手は「手を握る」という形ではなく、指を絡めた所謂「恋人繋ぎ」という形だった。
「…そう言うのか」
やっぱり聞きたいこととは違う返事が返ってきたにも関わらず、室井は妙なことに感心する。
笑いながら、今度は青島が繋いだ手を振った。
「ふと横を見たら、室井さんの手があったから」
「手があったから、握ったのか?」
「ええ」
室井は苦笑した。
どうやら、手を繋いだことに深い意味はないらしい。
「折角隣にいるのに、室井さんに触れないなんて勿体無いでしょ」
屈託なく笑われて、室井は目を丸くする。
「室井さんの体温、安心するんですよ」
言葉に詰まる室井にそう告げて、青島は再びテレビに向かう。
手は繋いだままだ。
室井もなんとなく本に視線を戻す。
続きを読もうとしたが、一瞬にして内容が飛んでしまった気がした。
数行目で追ってから、内容が一つも入ってこないことに苦笑する。
何度か同じ行を読み返して、室井は本を閉じた。
本をソファーの上に投げ出すと、繋いだ手を引っ張る。
テレビに見入っていた青島が、なんの抵抗もなく室井の方に引き寄せられた。
「わっ!室…っ」
驚いて声を上げた青島の唇を、自分のそれで塞いだ。
突然のことで目を丸くしている青島に構わず、室井は深く求める。
呆然としていた青島も、すぐにそれに応えてくれる。
室井は空いた右手を青島の髪に差し入れて、その感触を楽しみながら唇を重ねた。
しばらくして解放すると、薄っすらと赤い顔をした青島が苦笑する。
「なんすか、いきなり」
「君が手なんか握るからだ」
「邪魔じゃないって」
「やっぱり邪魔だった」
そう言うと青島がちょっと傷ついた顔をしたから、室井は小さく笑った。
「君と触れ合っているのに、小説なんか頭に入るわけないだろう」
青島は一瞬きょとんとしてから、苦笑した。
「それは俺のせいですね。申し訳ないです」
「全くだ。責任を取ってもらおうか」
軽く唇を合わせる。
左手を繋いだまま空いた右手で抱き合う。
耳元で青島がクスクス笑う。
「まだ、日が高いですけど」
「関係ないな」
「そうですね。俺ももう引けないかも」
青島の頬に軽く唇を押し付けて、室井はソファーから立ち上がる。
手を引くと、何の抵抗もなく青島も立ち上がった。
「折角一緒にいるんです。いっぱい触れ合いましょうね」
微笑みながら言うから、室井も微笑む。
繋いだ左手はそのままで、二人は寝室に消えた。
END
2004.5.8
あとがき
web拍手にて5000HITのお礼のリクエストをしていただきました。
リク内容は「読んで恥ずかしくなる位の甘々なお話」ということでした。
お話の善し悪しは置いておいて、書いてる本人が恥ずかしいので、
ご覧になっている方も恥ずかしいのではないかと〜(笑)
タイトルがちょっとイカガワシイ気がします(気のせい?)笑。
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