■ only after


「お誕生日おめでとうございまーす」
内側からドアが開くのと同時にそう言ったら、室井は面を食らった顔をした。
目を瞠っている室井にやっぱりクラッカーは鳴らさなくて良かったなと思いつつ、青島は笑ってもう一度繰り返した。
「おめでとうございます」
「ありがとう、もうめでたい歳でもないがな」
苦笑ぎみの室井に促され部屋に上がる。
室井の部屋に入るのは初めてで、喜びと緊張を覚えた。
「そんなことないですよ、誕生日はいくつになっても祝うもんです」
それに、と青島は照れ笑いを浮かべた。
「初めて室井さんの誕生日が祝える、俺は嬉しいですよ」
室井が眉間にシワを寄せた。
そうかと呟く声は非常に低くて硬い。
照れているのだと分かるから、青島は笑みを深くした。

室井と知り合って数年経つが、付き合いだしたのはつい最近だった。
半月ほど前の青島の誕生日に室井に想いを告げられたのだ。
誕生日に告白だなんてらしくもなく随分ロマンチックなことをするもんだと思ったが、なんのことはなく室井は青島の誕生日を知らなかっただけだった。
たまたま12月13日に意を決して告白してくれたそうである。
そう考えたら、狙って誕生日に告白するよりも偶然な方が、かえってロマンチックかもしれない。
ただ、告白した本人は「凄い誕生日プレゼント貰っちゃった」と照れ笑いした青島に驚愕し、そんなことならちゃんとしたプレゼントを用意するんだったと後悔していた。
青島は別にいらないと言ったが、室井はちゃんと用意すると言って聞かなかったため、結局室井の誕生日にプレゼント交換をすることで落ち着いていた。
青島としては、切腹を覚悟した武士みたいなとても告白しているとは思えない顔で告白してくれた室井を拝めただけで満足だったが、室井が青島に何か贈りたいと言ってくれているものを断る理由も無かったから、了承していた。

軽く飲んで食事をし、腹が落ち着いた頃、青島は徐にプレゼントの箱を渡した。
「大したもんじゃないですけど、使ってくれたら嬉しいです」
相手のことを考えて真剣に選んだ贈り物なのに、つい大したものではないと言ってしまうのは、喜んでくれるだろうかという期待に、気に入らないかもしれないという不安が混ざるからか。
わりと図々しい青島でも愛しい人に渡す初めてのプレゼントには多少緊張した。
「ありがとう」
室井の顔が僅かに綻んだから、青島の表情も緩んだ。
中を確かめる前から嬉しそうに見えるのは、青島からの贈り物を喜んでくれているからだ。
そう思えば、安心した。
「開けていいか?」
「どうぞどうぞ」
室井の指が丁寧にラッピングを剥いでいく。
その手を眺めながら、似合うかなと思った。
青島が室井に贈ったのは、腕時計だった。
室井とプレゼント交換をする約束をしてすぐに、贈るものは決まった。
青島の趣味の一つは腕時計収集であり、好きなブランドの腕時計に室井に似合いそうだと以前から目を付けていた腕時計があったからだ。
箱を開けた室井が目を見開いて青島を見た。
「…無理したんじゃないのか?」
「いやいや、そんな」
笑ってごまかし、それでも舌を出して本音をみせた。
「誕生日がボーナス直後で助かりました」
室井は少し眉をひそめた。
そんなに無理をしなくてもいいのにと思ったのかもしれない。
だが、青島の気持ちを汲んでか何も言わず、ただ「ありがとう」と言ってくれた。
否定されるより、喜びの言葉を聞くほうが嬉しいに決まっている。
「使ってくださいね」
「もちろんだ」
「気に入ってくれました?」
「ああ、凄く」
青島が笑うと、室井も小さく笑ってくれた。
「ありがとう」
もう一度礼を言ってくれる室井に首をふり、青島は室井の手から腕時計を取り上げ、室井の手を取った。
手首に腕時計をはめて、その手を取ったまままじまじと眺めて、自分の見立ては間違いではなかったと悦に入る。
青島は室井の手が好きだった。
持ち主の真っ直ぐで高潔な人柄をそのまま表すような、きれいな手をしていた。
その手を自身の贈り物で飾れることが、青島は嬉しかった。
「やっぱり似合いますね」
照れているのか頬が少し強張っている室井に、青島は悪戯っぽく笑って握った手をひょいっと持ち上げた。
その甲に軽く唇を押し付けると、室井が目を剥いた。
ちょっと気障なことをしたかなと、青島も照れ笑いになったが、後悔はなかった。
一度触れてみたいとずっと思っていたからだ。
「誕生日おめでとうございます」
手を握ったままもう一度祝うと、室井はぐっと眉間にシワを寄せ強く手を握り返し青島に身を寄せた。
二度目になるキスに、青島は内心で笑いながら目を閉じた。
キスをするにしては険しい顔をしている室井がおかしかったのだ。
だが、笑いそうだったのは一瞬だけだった。
室井に告白された時に青島から仕掛けた触れるだけで離れた一度目のキスと違い、何度も重なる唇や吐息にそれどころではなくなる。
青島が空いた手で室井の背中を抱くと、室井の舌が唇を割りキスが深くなった。
ぞくりと震える背中は明らかな快感を捉えていた。
室井とこの先の経験をしたことはまだない。
だけど、期待しないではなかった。
室井の告白を受け入れる形で始まった交際だが、長い片思いの相手が愛しくて堪らないのはお互い様だった。
手を繋いだままキスを繰り返していると、室井が青島を床に押し倒した。
その拍子に唇が離れ、真上から見下ろす男の眼差しに、青島は顔が熱くなるのを感じた。
どんなふうに求められているのか、何となく理解した。
「青島…」
室井の唇が愛しげに名前を呼んだのは一瞬で、すぐに青島の襟首を開き首筋に吸い付いてくる。
掌が身体に触れて、青島は吐息を乱した。
室井が触れていると思うだけで、ぞくぞくした。
それが快感だと自覚しているだけに、青島は微かに慌てた。
「む、室井さん、ちょっと待って…」
「いやか…?」
室井が手を止め、青島を見下ろした。
意思を確認するように目を覗き込まれれば、答えなど決まっている。
「嫌じゃないですよ」
嫌なはずがない、ただ―
「嫌じゃないんですけど、あの、ちょっと…」
ごにょごにょと言う青島には、明確に室井に願う言葉が浮かばない。
嫌ではないのだから、止めて欲しいわけではない。
でも、ちょっと性急で、身体に頭がついていかないのが落ち着かない。
だからといって、もっとゆっくりしてくれというのも何かが違う。
ゆっくりされればされたで、恥ずかしい気もした。
つまり、このまま事を進めるべきか。
いやしかし。
―なんて、一瞬の間にぐるぐる考えこんでいる青島に反して、室井の方が答えを出すのが早かった。
「嫌じゃないんだな?」
そこが重要とばかりに再度確認する室井に、青島は戸惑ったまま頷いた。
「…です」
「なら、触らせてくれ」
唇を合わせながら、室井の手が動き出した。
ベルトが外され下着の中 に手をいれられると、さすがに羞恥を覚えて、喉からくぐもった音が漏れた。
はっきりとした声にならなかったのは、室井と唇を合わせたままだったからだ。
室井が宥めるように青島にキスをしながら、青島のそこを握りこんだ。
既に反応していることに気恥ずかしくなるが、すぐに室井の手が上下するからそれどころではなくなる。
「あっ…ん…っ」
青島が微かに顎を逸らすと、室井は首筋に顔を埋めながら手を動かした。
「いいか?青島…」
「いい…です、けど」
「そうか」
見たことがないような喜びに溢れた眼差しを向けられて、青島は堪らず視線を逸らした。
逸らした先が悪かった。
自身の欲望を愛撫する室井の手が見えた。
一度触れてみたいと思っていたきれいなその手が、きっと似合うだろうと思い心を込めて選んだ腕時計をはめたままのその手が、青島を追い立てていた。
「くっ…あ、あ…っ」
腰の奥から込み上げてくる快感に、青島は慌てた。
「室井さん、待って、ちょっと手離して…っ」
「嫌ではないと言ったぞ」
「そ、だけど…っ、あ、あ…っ」
喘ぎながらの微かな抵抗など、抵抗のうちにも入らない。
室井は構うことなく手を動かした。
こうなることを夢見たことがないわけでもないのに、実際起こると信じられない。
あの室井が、持ち主と同じく汚れることなどないようなあの手で、青島のそこを執拗に愛撫していた。
青島は腰を震わせ抑えた小さな声を漏らしながらも、無意識に視覚からくる情報を遮断しようと目を閉じた。
掠れた室井の声が耳に届いた。
「凄く濡れてる…」
室井の手を、自身が濡らしているのだと知る。
「…っ」
青島は顎をそらし、高い声を上げた。
一気に突き上げる絶頂に、我慢できずに室井の手の中に吐き出す。
「青島…」
愛しげに呼ばれる名前と緩く促す室井の手に身を預け、青島は快感を味わった。
詰めていた息を吐き出しゆっくり呼吸をしながら、目を開いてぼんやりと室井を見上げると、見つめる室井と目が合う。
欲を感じさせる熱い眼差しなのに、酷く嬉しそうにも見えた。
どうやらこうなることを夢見ていたのは、青島だけではなさそうだ。
青島は照れをごまかすように膨れ面を作った。
「言っておきますけど」
「なんだ?」
「いつもこんなに早いわけじゃないですからね」
男の沽券に係わるとばかりに釘を刺したら、室井が目を瞠り、そして笑みを浮かべた。
「ああ」
頷きキスをくれた室井は、呆れたふうでも馬鹿にしたふうでもなく、柔らかな視線を落としていた。
青島は馬鹿な見栄を張る必要もないかと思い直し、苦笑を浮かべた。
「室井さんの手、汚しちゃった」
「気にするな、俺がしたくてしたんだ」
「時計は無事?」
それには苦笑した室井が「大丈夫だ」と笑ってくれたから、青島はホッとした。
ホッとして、身を起こし、今度は青島から室井に手を伸ばした。
「俺を良くしてどうすんの、室井さんの誕生日なのに」
スラックスの上から触れるだけで、室井の興奮が伝わってくる。
自分を愛撫することで興奮していたのかと思うと堪らなかった。
息をつめた室井が、吐息を漏らし聞いたこともないような声で青島を呼ぶ。
「今度は室井さんの番ね」
青島は室井の下着の中に手を進め、ひっそりと囁いた。
「俺の手も汚してください」
微かに呻くような声を漏らし、室井もまた青島に手を伸ばした。
「次は一緒に」
もちろん、青島に異存はない。
だけど、その前に一つだけ注文があった。
「室井さん」
「ん?」
「腕時計、外してください」










END

2013.1.3

あとがき


また、誕生日祝いが微エロ…(笑)
先日のチャットで書きます!とお約束していた、
室井さんの手にメロメロで手だけでごにょごにょな青島君でした。
思ったよりもメロメロ感がでずに申し訳ない感じです…;
私の精一杯ということで許してくださいっ。

ちなみに、今年のお誕生日話ではなく、もうちょっと若いお二人のお話でした。
きれいな室井さんの手を汚すことには興奮できても、
自分で贈った腕時計は汚したくない青島君でした。
そりゃそうか(笑)

室井さん、お誕生日おめでとうございます!
早く警視総監になってねー!


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