■ 相互作用


青島が頭を下げようとしたら、室井が両手で頬を掴み、それを阻止した。
「そんなこと、しなくていいから」
室井はどこか困ったように眉を寄せているが、青島も困った。
何故拒まれているのか理解に苦しむ。
青島は不満げに唇を尖らせた。
「そんなことって…さっき室井さんもしてくれたことですよ?」
室井の唇に追い上げられて、達したのはついさっきのことである。
大変気持ち良くしてもらったので、青島としては室井にもそうしてあげたい。
そう思っているのだが、今までに一度もさせてくれたことがないのだ。
何故だか毎度断られる。
「俺、噛み付いたりはしませんよ」
「そんな心配はしていない」
気まずそうにしながらも、室井は律儀に否定した。
青島も的外れな主張だと分かっていたが、拒まれる理由が分からない以上説得する上手い言葉も出て来ない。
だが、今日こそは、と思う。
「なら、俺にもさせてくださいよ」
食い下がる青島に、室井は眉を寄せた。
「君はしなくていい」
「だから何でですか」
「…満足してるから、いらない」
渋面で言う台詞かと思うが、満足しているということは何よりだと思う。
柔らかみのない硬い身体は決して抱き心地の良いものではないだろうが、進んで抱きたがるくらいだから室井にとってはそう悪いものではないのだろう。
そのこと自体は嬉しく思う。
だが、それとこれとは別問題だ。
室井がしてくれるイイことを、青島だって室井にしたい。
してもらっているからという義務感ではなく、相手を気持ち良くしたいという男としての欲求でもあるし恋人に対する愛情でもあった。
それなのに室井は嫌だと言うから、理解に苦しむ。
「室井さん、口でされんの嫌いなんすか?」
そんな男がいるとは思ってもいなかったが、もしかして室井はそうなのだろうか。
あけすけな質問だったせいか、室井は益々渋面になってしまった。
だが、青島は頓着しなかった。
裸で肌を合わせているのに、遠慮しながら話す方が気恥かしい。
「そんなに潔癖症なわけじゃないでしょ?」
大体青島のはしてくれるのだ。
逆ならいざしらず、するのはいいがされるのは嫌だという潔癖症はいないだろう。
「…もういいだろう」
この話は終わりだとばかりに室井が少々強引に押し倒そうとしてくるから、青島も力強く室井の胸を押し返した。
「だめ」
「青島」
「させてくれるまでやりません」
「……君こそ、なんでそんなにやりたいんだ」
溜め息混じりに言われて、青島は唇を尖らせた。
そんなふうに言われたら、まるで青島が口でしたがっているみたいではないか。
いや、したがっているといえばしたがっているのだが、その行為自体に魅力を感じているわけではない。
ただ単に、室井にされて気持ちが良かったから、室井にもそうしてあげたいというだけのことだった。
「室井さんのことも気持ち良くしたいって思っちゃいけない?」
誰が好き好んであんなものを咥えたがるんだと思う。
室井だって青島を良くしてやりたいと思うからしてくれているのではないのだろうか。
それでいて、何故青島の気持ちが分からないのか、不思議でならない。
「たまには俺にも、室井さんを気持ち良くさせてよ」
青島が室井の顔を覗き込むように顔を寄せると、室井は眉をひそめた。
「十分気持ち良くしてもらってる」
「いや、俺の方が絶対良くしてもらってますって」
はたで聞いていたらこれ以上ないくらいどうでもいい言い合いだったが、室井を納得させようと躍起になっている青島は気付かなかった。
問い詰められている室井も、もちろん気付いていない。
「君の中でいってるんだ、良くないわけがないだろ」
やけになったのか、室井が露骨なことを言った。
青島は一瞬口ごもり怯んだが、まだ負けられない。
「そん時には俺だってそれどころじゃないんだ、アンタの感じてる姿なんかのんきに鑑賞してる余裕ないっすよ」
「そんなもの見たがるな」
「自分は散々見てるくせに」
返す言葉もない室井が口を閉ざす。
「俺が室井さんを気持ち良くしたらだめなんですか?」
不満を通り越して少し悲しそうな声になった。
室井に身体を差し出すことしか望まれないのなら、悲しかった。
青島だって室井にしてやりたいことがたくさんあるのだ。
それを望まれていないのだとしたら、悲しいし虚しい。
少し目をふせた青島の頬を室井がそっと撫ぜた。
視線を持ち上げると室井が困り果てたような目で青島を見ていた。
「だめなわけないだろ…」
「じゃあ、なんで嫌がるんすか」
会話が堂々巡りしているが、青島が知りたいことはそれしかなかった。
しつこいが、青島はただ室井も気持ち良くしてやりたいだけだ。
少なからず、乱れる室井を見たいという欲求もあるが、それほど無理な要求をしているとは思えなかった。
なんせ、室井自身がしていることをさせてくれと言っているだけである。
拒まれている理由が青島には分からない。
室井と身体を重ねることは気持ちがいいし嬉しいし概ね文句はないが、それだけが少し不満だった。
しつこい青島に諦めたのか、室井は深い溜息と共にやっと吐き出した。
「……自信がないんだ」
だが、青島にはその意味が伝わらない。
「なんのですか?」
「だから……もたせる自信がないんだ」
「何を?」
首を捻る青島に、室井は眉間に深い溝を作って呻くように言った。
「君にそんなことをされたら、きっとすぐにいってしまう」
青島はきょとんとした。
言われた言葉がすぐに理解できず、数回頭の中でリフレインさせてから、ようやく口を開いた。
「えっとぉ…俺、そんなにテクニックないと思いますよ?」
中々に情けない主張だったが、何分経験がないから自分の技術に自信はなかった。
室井が協力してくれるなら努力もするが、室井がさせてくれないのだから、青島に経験があるはずもなかった。
そんなに期待されても、ご期待に沿えるわけがない。
「…そういうことじゃない」
盛大に顔をしかめている室井に、青島は益々首を捻った。
「つまり?」
「だから…っ」
赤面した室井が怒ったように言った。
「君にそんなことをされるだけで、興奮してしまうと言ってるんだっ」
青島は言われた言葉に驚いたが、ようやく室井の言いたいことを理解した。
つまり、青島の技術の問題ではなく、室井の精神的な問題なのか。
青島がするだけで室井が反応してくれるなら青島にとっては嬉しいが、室井にとっては恥ずかしいことらしい。
みっともないとでも思っているのかもしれない。
人のことを散々鳴かせておいて、良くもまあと呆れてしまう。
だが、青島にされるだけできっといってしまうと白状した室井は、可愛くて愛しかった。
青島は微笑みながら室井の首に手を回し、唇を重ねた。
舌を差し入れ深く求めても室井は嫌がらず、青島の舌に応えてくれる。
舌を絡めながら、じゃれるように室井にしがみつき、室井の下腹部に手を伸ばした。
「青島…」
息を詰める室井に軽くキスをし、誘う。
「俺にもさせてください、いいでしょ?」
「あ、青島、よせ」
室井はこの後に及んでまだ抗ったが、青島は気にせず笑っていた。
青島にされるのが嫌で抗っているわけではないということが分かったからだ。
遠慮する必要はないだろう。
室井が自分に興奮することは既に身を持って知っているが、まだまだ知らない顔がきっとあるのだ。
それなら、是非とも見せてもらいたい。
愛しい人の多くを知りたいという欲求と、鳴かせてみたいというほんの少しの嗜虐心と、やっぱり室井も気持ち良くしたいという大きな愛情が青島を動かしていた。
やんわりと手を動かして誘う。
「室井さんが気持ち良くなるとこ、俺にも見せてくださいよ」
小さく呻いた室井の唇を塞ぐと、噛みつくようなキスが返ってきた。
室井が折れるまで、後少し―。


この夜青島は粘って本懐を遂げることになるが、次回からはこんな苦労はしないで済むようになる。










END

2011.2.25

あとがき


下世話なお話になってすみませんでした(^^;
これも結局、青島君が好きすぎる室井さんが書きたくて書いたお話でした。
書いてみたら、ただのバカップルになりましたけど…
いつものことですけど…(笑)

私が苦手なので(後、青島君が可愛すぎるので)リバではないですが、
青島君だって室井さんを受動的ではなく能動的に気持ち良くしたいだろうなー
という妄想でした。


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