■ 蕩けるような
約束の時間に室井の家に現れた青島を見て、室井は目を丸くした。
「ひどい顔だな…大丈夫か?」
眉を顰めて言うと、青島は疲れきった顔で苦笑した。
「昨日、結局家に帰れなくて」
「徹夜だったのか?」
「小さな傷害事件が多発したもんで、人手足んなくて」
肩を竦めた青島をとりあえず部屋に上げて、ソファーに座らせた。
少しぼんやりしていて、立っているのも辛そうだったからだ。
「飯、食えるか?」
「あ〜嬉しいです〜。もう、腹へっちゃって…」
ふにぁと笑った青島に、室井は思わず苦笑しする。
青島の髪を軽く掻き混ぜて、台所に向かった。
―無理して来てくれたんだろうな。
本当なら、真っ直ぐ家に帰って泥のように眠りたかっただろうに。
約束していたからか、それとも室井に会いたいと思ってくれたからか。
恐らく後者だ。
室井はそう思ったから、「無理して会いに来なくても良かったのに」とは青島に言わなかった。
会いたかったのは室井も一緒で、しんどい身体を引きずって会いたいに来てくれたことは素直に嬉しかった。
例えそれが恋人に対する気遣いだとしても、「会いに来なくても良かった」とは思えなかったし言えなかった。
あの様子なら、きっと青島は泊まって行くだろう。
―精々美味いものでも食わせてやって、温かい風呂にでも入れてやろう。
室井はそう思いながら、支度を始めた。
「お風呂ありがとうございました」
声を掛けられて、室井は読んでいた雑誌から顔を上げた。
タオルで頭を拭きながら笑っている顔を見る限り、少しはスッキリしたようだった。
「風呂場で眠らなかったか?」
「大丈夫でしたよ!……ちょっと危なかったですけど」
はにかむような青島の笑みに、室井も微笑した。
雑誌を置くと、青島を手招きした。
素直にソファーに寄って来た青島の身体を抱き寄せる。
常よりも温かい身体とシャンプーの香りが心地良い。
青島は抱き寄せられるまま室井の腕に納まった。
「あーーー…、室井さんだ」
力の抜けた青島の声を聞いて、室井は笑った。
「当たり前だろ?」
「そうなんですけどね、久しぶりだから」
苦笑しながら、青島が唇を近づけてきた。
室井は目を細めて、それを受け入れる。
やんわりと触れ合う唇。
すぐにもどかしくなったようで、青島から舌を差し入れて来た。
室井はそれに応じながら、ソファーに横になった。
青島がその上に覆いかぶさってくる。
青島の首に掛かっていたタオルを取って床に落としてしまうと、室井は青島の後頭部に手を回して深く求めた。
激しく舌を絡める。
「…ン…ッ…」
鼻に掛かった青島の声を聞いて、唇を少し離した。
とろんとした瞳が室井を見つめてくる。
室井は迷わず欲情したが、青島の方はどっちだが判断が付かない。
欲情しているのか、眠たいのか。
苦笑して、室井は青島の頭を撫ぜた。
「大丈夫か?」
「ん…平気です」
そう言うと、また軽く唇を合わせてくる。
「室井さん」
「ん?」
「その…室井さん、お風呂いいです?」
家主を差し置いて自分だけ風呂に入り、挙句押し倒しているのが気になったらしい。
こうなっては、どちらも引き難い。
室井は喉の奥で笑った。
「君が気にならないなら」
「…全然」
囁くように呟いて、また唇を重ねてくる。
今度は最初から深く、青島の舌が室井の口内を愛撫してくる。
背筋がゾクッとするような快感に、室井は目を細めた。
―疲れてるはずなのに、大丈夫だろうか。
一瞬だけ思った。
だが青島の唇の熱さに、思考回路はすぐに乱れる。
室井は青島の首を支えて、身体を入れ替えた。
青島の両腕が、緩慢な動作で室井の背中を抱いた。
今度は室井が舌を差し入れ歯の裏を舐めて、青島の口内を愛撫する。
青島もそれに応じて求めてくれたので、舌を絡めあって吸い上げた。
「…ふ……ン…」
「…っ…」
二人の呼吸音と濡れた音しか響かない。
室井は青島を欲するままに唇を重ねた。
するとどういうわけか、青島の反応が徐々に鈍くなってくる。
「……?」
疑問に思って少しだけ唇を離すと、至近距離でぼんやりとした眼差しと目があった。
「あおしま?」
「……ダメだ……」
「え?」
「室井さん…キス上手すぎ…」
目を丸くした室井に、気付いているのかいないのか。
「何か…気持ちいい………」
青島はそのまま目を閉じてしまった。
すぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。
どうやらキスしているうちに心地よくなってしまい、眠ってしまったようだ。
性欲より睡眠欲が勝るのは、人間として正しい。
ややしばらく呆然としていた室井だが、やがて吹き出した。
慌てて口元を押さえたが、そんなことくらいでは青島は目を覚ましそうになかった。
よほど疲れていたのだろう。
急激に襲ってきた睡魔に、勝てなかったらしい。
室井は身体を起こすと、そっとソファーから下りた。
正直にいえば、少し、いやかなり残念だ。
それでも、青島の睡眠を邪魔する気にはとてもなれない。
穏やかな寝顔に微笑して、その額に唇を押し付けた。
「おやすみ」
END
2005.4.23
あとがき
お題とあっているのかどうか;
「蕩けるような=気持ちいい=眠くなる」という
分かるような分からないような図式になっております(笑)
ちょっと室井さんが可哀想な気もしますが、目が覚めたら…ねっ(ナニ)
申し訳ないと思った青島君からのサービスが待っているのではないかと!
思ったり思わなかったり!(おい)
これでも三回書き直しました、このお題(苦笑)
ボツネタはそのうちSSSにでもアップします〜。
これにて「キスのお題」も終了です!
糖度の高い話ばかりになってしまいましたが、ネタを考えるのは楽しかったです。
皆様にも少しでも楽しんで頂けていればいいなぁと思います。
お付き合いくださって、ありがとうございました(^^)
template : A Moveable Feast