■ 唇に
「んーーーーー」
青島が唇を突き出してくる。
『キスして』というスタイルなのだが、室井は眉を顰めた。
そして、青島の顔を手の平で押し退ける。
「酒臭い」
「いたたたた」
首が反ってしまってせいで、青島が悲鳴を上げた。
「酷いっすよ、室井さぁ〜ん」
恨めしそうな目で見つめてくる青島を軽く睨んだ。
「うるさい、この酔っ払い」
「酔っ払ってませんよぉ」
赤ら顔で、締まりの無い表情で、ろくに回らない口で何を言われても、全く全然一つも信憑性がない。
急に接待にかり出されたとかで、待ち合わせをキャンセルされたのはいい。
お互い仕事を抱える身だから、接待も仕事のうちだと理解してやれる。
まさかベロベロに酔っ払って自宅に強襲されるとは思いもしなかったが、会いに来てくれたことは素直に嬉しかった。
今日は会えないと思っていたから。
だけど、こうも泥酔して来られると室井も辛い。
どれだけ飲んだのか、青島はかなり酒臭かった。
これは間違いなく明日も残るだろう。
室井は溜息をついた。
「もう寝た方がいい。明日堪えるぞ」
「まだ大丈夫ですよぉ」
呂律の怪しい口調で言いながら、青島がしな垂れかかってくる。
「大人の時間はこれからです」
「……」
何が大人の時間だ。
青島のとろんとした目を見ながら、室井は溜息を吐いた。
時間の問題で眠るだろうと判断すると、室井に寄り添っている青島の背中を抱いてやる。
眠るまでの少しの間、付き合ってやることにしたのだ。
「ああ、そうだな」
「でしょ?」
嬉しそうに笑って室井の首に両腕を回すと、その首筋に顔を埋めてくる。
でっかい子供に懐かれているような気分になって、室井はとうとう苦笑した。
「朝まではいっぱい時間ありますよ?室井さん…」
「そうだな」
「いっぱいキスしましょうね…」
「ああ」
「今日は…すみませんでした…」
「気にするな」
「室井さん…」
「ん?」
「……会いたかったです……」
その後は、聞こえるのは寝息のみ。
室井は予想通りに寝付いてしまった青島を見て、苦笑を深めた。
「…俺もだ、青島」
はた迷惑なはずの酔っ払いも、それが青島だと許せてしまうのが不思議である。
このまま運ぶのはちょっとキツイが、室井は青島をベッドまで運んでやる。
呑気な寝顔に微笑むと、室井は青島の願いを叶えてやった。
一度だけ唇を重ねる。
寝ている青島に何度もしても仕方が無いので、続きは起きてからだ。
寝室の電気を消した室井は、やっぱり苦笑した。
「酒臭い…」
END
2004.12.14
あとがき
邪険にされる青島君が書きたかったんですけど…。
何か違いますね(^^;
邪険にされる室井さんもいいなぁと思ったんですけど、
キスを「んー」って強請る室井さんはどうだろう?と思いまして止めました。
どうですかね?「んー」ってする室井さん(笑)
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