■ 頬に


感動的な映画を見れば、室井も人並みに涙することはある。
今だって、結構キていた。
隣の青島を見るまでは。
「…ううっ…ぐすっ」
鼻をティッシュで押さえたまま離さない。
そうしないと鼻水が垂れてくるのだろう。
室井は号泣する青島を見て、苦笑した。
こういうことにもタイミングというものがあるのだろうか。
先に青島に号泣されてしまったために、室井の涙は引っ込んでしまった。
青島の涙にひいたわけではなくて、むしろ微笑ましく思う。
室井の気持ちが映画から青島に移ってしまったのだ。
こうなるとラストに差し掛かって感動的なシーンを繰り広げている映画よりも、青島の方がずっと気になる。
どうせ映画はDVDなのだから、いつでも見られるのだ。
そう思って、室井は黙って青島を盗み見る。
結構前から涙していたのか、目が赤い。
時々感極まるのか、奥歯をグッと噛んでいる。
それでもやり過ごせないと、青島の目から新しい涙が零れる。
それが頬を濡らすのを見つめていると、ほぼ無意識に室井は動いた。
床に手をついて、青島の方に少しだけ身を乗り出す。
そして、今だ映画に夢中な青島の頬に唇で触れた。
青島が弾かれたように振り返る。
驚いたようで、真っ赤な目が大きく見開かれた。
「むろいさん?」
「…ン…しょっぱいな…」
室井は自分の唇を舐めて、思わず呟いた。
一瞬の間の後、青島は薄っすら赤面した。
「…当たり前でしょ。涙なんだから」
邪魔をしたせいか照れているせいか、ちょっと膨れっ面だ。
室井は苦笑した。
「そうだな」
「何ですか?突然」
「いや」
「?」
「可愛いなと思っただけだ」
泣く青島が可愛かっただけ。
そう素直に告げると、今度ははっきりと膨れっ面になる。
「からかってんですか?」
涙目のまま半眼で睨まれるが、室井は至って真顔で答えた。
「本気なんだが」
やっぱり素直に答えると、青島は眉を寄せ顰め面を作った。
だが、その顔がますます赤く染まったため、室井の表情は緩むばかりだ。
「…なお悪い」
「そうか?すまない」
「もうっ、邪魔しないでくださいよっ」
そう言って、青島はまた映画に向き直る。
その照れた横顔に、室井は笑ってもう一度唇を寄せた。










END

2004.11.3

あとがき


室井さんが一倉さん化してませんか?
オヤジですねぇ…。

室井さんは青島君が可愛くて可愛くて仕方が無いらしいです。
ていうか、それは私か?(^^;



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