はじまりはいつも雨(5)

「あっおっしっまっく〜んっ」

 妙に陽気な声に呼ばれて、無意識の内に青島の身体は逃げの体勢を作っていた。が、やはりそれを見逃

さないのは、刑事の習性か、それとも野生の勘なのか。がっしり、と左腕を掴んで、すみれはニヤリ、と

微笑った。

「な、なに、すみれさん……」

「あんた、私に隠し事してるでしょう〜?」

「え?な、何の話?」

「どもるところが十分怪しむに足りますよ、青島さん?」

 反対方向から突然雪乃が現れて、今度は右腕を取られてしまう。両腕を拘束されては、いかに青島とい

えども逃げる術はない。この危機をどうしたら脱することができるのか、周囲に助けを求める視線を投げ

てみるが、どいつもこいつも皆素知らぬふりを決め込んでいる。下手に触れて、火の粉が飛んでくるのを

恐れているらしい。

「出頭よりも自首の方が罪は軽くなるってこと、知ってるでしょぉ?」

 すみれが妙に語尾を延ばして喋る時。それは大抵良からぬことをしようとしている時。何となく嫌な予

感がして、背筋を悪寒が這い上がってくる。

「そりゃ当然知ってるけど……。何の話か、さっぱり分かんないんだってば」

「あら、どうしよっか、雪乃さん?」

「まあ、ここまで足掻くのなら、多少刑罰が重くなっても、逮捕するしか手はないでしょうね?」

 雪乃まで何だか物騒なことを口にしている。

 もしかして。いやいや、そんなはずは。

 青島の中で渦巻く疑惑。誰も知らないはずなのに、もしかして。

「仕方ない……。ねえ、青島くん?」

「は、はい」

「む・ろ・い・さ・んv」

「なななななんのことっ!?」

 何でそこで室井さんの名前が出てくるわけ!?って、やっぱり知ってるんだ!?でも、どうして!?

「まだしらばっくれる気か。……よし、今度は雪乃さん?」

「はいv……青島さん、これ、何ですか?」

「えっ?」

 雪乃がこれ、と指差した箇所。すみれがご丁寧にポケットから取り出した手鏡で、そこを映す。

「っああああっ!」

「はい、言い逃れ不可ー♪」

「黙秘権却下ー♪」

 虫刺され、とはとても誤魔化しようのない、紅い鬱血点が、青島の首筋に浮かんでいた。

「よし、取調室1番使いまーすっ」

 さあ、どう料理してやろうか。

 すみれと雪乃のそんなセリフが聞こえてきそうだった。











「どうせいつかはバレるんだろうし、ま、いっか」

 受話器を置いた真下は、妙に晴れ晴れしい心持ちで天井を仰いだ。ふと、何かを思いついたように、

背広のポケットに手を突っ込む。かさり、と音が立った。それを取り出し、蛍光灯の灯りに翳す。

 それは、青島の部屋から失敬した、ブックマッチだった。蓋を開ければ、そこには後1本しか残ってい

ない。使用済みの1本は、昨夜真下自身が使ったものだ。

「これくらい、別にいいよね」

 消そうと足掻けば足掻くほど、尚燃える想い。それはまるでマッチに灯された赤く燃える火のようで。

きっといつか、同じように燃え尽きてしまうのかもしれない。

 だから、それまでは。

 記念なんてセンチメンタルなものではないけれど。

 確かに自分は彼が好きだったのだと。

 眼に見える証のような気がして。

 真下は背広のポケットに再びそれを、そっと仕舞った。





 ふと、窓の外を見る。

 どこまでも晴れ澄んだ空が、柔らかに拡がっていた。
















END


「カッコイイ室井さん」というリクで、こんな素敵な小説をうらんさまが書いて下さいました!
む、室井さん・・・カッコイイv
青島君をちゃんと知りたい室井さんも、本当の自分を知って欲しい室井さんも、
カッコイイですよね〜(^^)
「ヘタレ室井愛好会」の仲間であるうらんさまに無理難題を押し付けてしまいましたが(^^;
イイもの見せて頂きましたv
ありがとうございました!