ラヴァーズ・コンチェルト






青島と、所謂「お付き合い」を始めてから、3ヶ月ほど経っていた。



その間にもちろんキスは何度だってやったし、セックスだって、もう既に両手じゃ数えられないほどやっ

た。逢える回数は少ない。だから、逢った時は燃え上がる。障害が多ければ多いほど燃える、というのは

案外真理なんだな、と始めて知った。




けれど、最近、青島の様子が微妙におかしい。いつも通りよく笑うし、よく飲むし、よく食う。「だから

太るんだよ、お前」と半ば呆れながら、腹の辺りを摘んでやったら、真っ赤になって鉄拳を振り下ろしや

がった。その後、「それがいいんだ」と付け加える隙なんて、与えもせずに。




心の相性があるように、身体にだって相性はある。

そういう意味では、青島は俺にとって、理想とも言うべき、抜群の相性を持っていた。

その青島が妙に暗いような気がするのは、きっと気の所為じゃないのだろう。その証拠に、ほら、今だっ

て、ちらちらと上目遣いに、こっちを見やがる。

「何だ、何か言いたいことでもあるのか」

温くなったビール。眉間に皺を寄せながら、それでも最後の一滴まで飲み干す。

「あー、いえ……別に」

言葉を濁しながら、誤魔化すように、青島もグラスを煽った。

その態度のどこが「何もない」のか、こっちが教えて欲しいくらいだ。あからさま過ぎるんだよ、バカ。

「なんだよ、何か買って欲しいものでもあるのか?」

「んなワケないでしょ」

「じゃあ、なんだよ?俺にしてほしいことがあるんなら、何でも言ってみろ」

「……言っても、いいんですか?」

「聞くだけは聞いてやる」

「そんなら、言わない」

ぷい、とあらぬ方へと視線を流す。ったくイイトシこいた男のする仕草か、それ。…可愛いけど。

「なんだよ、青島?気になるだろう。ほれ、言え」

「やだ」

「なにを拗ねてんだよ?」

「拗ねてなんかいませんっ」

「拗ねてるんじゃないんなら、怒ってんのか?」

「怒ってもいませんっ」

「じゃあ、なんだよ?」

「………」

 じいいっと青島の視線が射抜くように、真っ直ぐ。俺の瞳の奥を探るように、真っ直ぐ。

「………てない」

「あ?」

目の前に座っているというのに、たかがテーブル一枚挟んだだけの僅かな距離。小さな声音は霞んで空気に

溶ける。

「も一回」

「………われたことない、から」

「すまん、大事な部分をもう一回」



「あんたに……、あんたに!まだ一度も!言われたことない!」



真っ赤になって、きっと睨みつけて。……ああ、違うか。睨んでいるんじゃない。思わず緩みそうになる涙

腺を抑えつけてるだけだ。

「なんだ……、そんなことか」

「そんなこと!?そんな些細なこと、って言うんですかっ?そりゃあね?もう何回もキスもセックスもやっ

ちゃったよ。オレが一倉さんをムリヤリ引き摺りこんだような気がしないでもないから、ずっと我慢してた

けど……っ」

「おいおい、落ち着け。お前が?俺を?引き摺り込んだ?それは付き合ってることに対して、そう言うのか

?」

「そ、です……」

「それこそ、失礼だな。俺に対する冒涜だ」

「じゃ、なんで……っ」

「言ったこと、なかったか?」

「ないよ!ないから、言ってるんじゃないか!」

「ふむ」

そりゃあもうサカリのついた動物のように、キスもセックスもたくさんやった。青島とは身体の相性がすこ

ぶる良いことに、俺は感動を覚えたもんだ。

けれど。それだけじゃないことも、ちゃんと気付いてるし、認めてもいる。むしろ、今となっては。

 

俺の方が、離れられない。

 

言ったことがなかったのは、間違いなく俺の怠慢だろう。

だけど、本当は。

 

ずっと言い続けていた。

逢っていない時だって。

 

叫んでいたんだ。

 

「青島……」

「は、はい……?」

 

「好きだ」

 

するり、と口を突いて出る。物凄くこの言葉が舌に馴染んでいる。

そりゃ、そうさ。

青島が気付かなかっただけで、俺はもう何度も言い募っていたのだから。

 

「好きだ、好きだ」

「い、いちくらさん……」

「青島、好きだ。も〜メチャクチャ好きだ」

「わ、分かったから……」

「好きだ好きだ好きだ好きだ」

「いや、もうホントに、カンベン……」

じり、とテーブル越しに離れていた距離を縮めていく。頬を染めた、困惑気味の顔が間近に迫る。

身体の相性はいい。

顔も好きだ。

困ったような表情が、もしかしたら一番好きかもしれない。

でも、どんな表情でも、青島だと思えば、何だって好きだ。

声が好きだ。

直向に寄せてくる、その想いが好きだ。

とにかく。

青島が青島であること、青島を青島として形成するすべてのもの。

細胞ひとつまで、愛おしい。

「……好きだ」

触れた唇。掠めるだけのそれ。ふわり、と漂う、甘い風。

「なんか……、ヤケになってません?」

どうやら言葉の大安売りをしてる、と誤解している。

そうじゃない。

「いかに毎日、俺が何を考えているのか、そして今、俺がお前と飲みながら思っていたこと、それ全部口に

しただけだ」

鼻先が触れる。呼吸が当たる。ざわり、と背筋が粟立つような、衝動が湧き起こる。

「意味、分かるか、青島?」

「……分かんない」

「好きだ、と連発しても言い足りないくらい、お前が好きだってことさ。…好きだ、青島」

その最後の一言は、耳元で囁くように、優しく。

ついでに、耳朶も甘く食んでやる。

「……っ、ちょっと…っ」

「まだ言われ足りないか?それなら、おはよう、も、おやすみ、も全部『好きだ』って言葉に替えてもい

い。…好きだ、青島」

「…いやもう腹いっぱいです」

「なんだ、大した欲が無いんだな、お前」

するする、と背中に手を這わせる。青島が感じ始めているのを知る。

「あの時……、お前を追い駆けて良かった、と心底思うよ」

「ホントに?」

ゆるり、と伸びてきた腕。捕らえて、優しく背中へと誘導してやる。ぴたり、とくっ付いた身体。鼓動は、

もうどちらのものか、分からない。

「好きだ、青島」

「…バカの一つ覚えみたいに……」

 

「アイシテル」

 

小さく囁く。

冗談なんかじゃない、本気だってことを分からせる為に。熱に浮かされた、ガキのように。

背中に回った青島の手に力が篭る。

必死で縋り付くその様が、ただただ、愛しい。

 

こんな風に誰かを愛することができたなんて。

 

 

抱き締める腕。

逃さない、と締め付けて。

 

 

「愛してる」

 

 

昔、興味半分で聖書を手にしたことがある。

『愛はすべてを補うものである。』

『もっとも大いなるものは、愛である。』

 

初めてその文章を眼にした時は鼻で哄ったけれど。

今なら。

頷くことができる。

 

愛は

人を愚かにするかもしれないけれど。

その愚かささえ

いっそ、愛しく。

 

だから、愛、と言うのだ、と。

 

 

 

「愛してる、青島」

 

呪文のように、いつまでも。

繰り返す自分の愚かさも愛しく。

 

 

けれど、青島。

お前と出逢わなければ、

俺はこんな感情、知らないままで終わっていたんだ。

 

 

だから、いつまでも言い続ける。

想いのすべて

伝える言葉

それしか

知らないから

 

 

 

「愛してる」

 

 

 

覚えておいてくれ。

お前にも責任、あるんだからな。

 

 

 

 

 




END


「一青祭り協賛御礼DLフリー」ということで、うらん様より頂いて参りました!
どうですか?さすがでしょう?
最後の最後まで、素敵な一青を書いてくださいました!
一倉さんが、カッコイイ!なんてことでしょう!(おい)
青島君をかなり愛しちゃってる一倉さんが、ズルイけどカッコイイ!!
そして、そんな一倉さんがかなり好きな青島君が、本当に可愛いですーv