
コート
本庁を出て青島の自宅に向かっていた室井は、ふとすれ違った緑のコートに目を留めた。
青島と同じコートである。
つい目で追ってしまってから、室井は一人苦笑した。
誰が何を着ていてもよほど奇抜でなければ気にも留めない室井だが、青島のそのコートだけはしっかり覚えていた。
それが何だか可笑しかったのだ。
すれ違うだけで同じコートだと分かるくらい、青島のコートを見慣れているということか。
いや。
それだけ青島を見ているということなのだろう。
そんなことを思わぬところで再確認してしまった。
室井は幸せだなと思う。
こんなに思える相手に出会えたことは、幸運だったはず。
室井の過去にこれほどまで自分の中に存在感を植えつけた人間はいなかった。
そして、恐らくこれからも。
室井は今すぐ青島に会いたくなった。
「全く。・・・コート一つで」
自分自身に呆れながらも、室井は小さく笑って歩く速度を速めた。
すると、再び視界に入る緑のコート。
室井は今度も目を留めたが、見ていたのはコートではない。
青島、本人だ。
室井の進行方向からこっちに向かって歩いて来る。
「お疲れ様です!」
陽気に敬礼までして寄こすのは、紛れもなく青島本人だった。
室井はほんの一瞬だけ幻覚なんじゃないかと思う。
今の今まで青島のことを考えていたから見てしまった幻覚。
さすがにすぐに我に返る。
幻覚まで見るようになったら、末期もいいだけ末期だ。
・・・すでに大分それに近いが。
「青島」
「今日はちょっと早く上がれたんで、お出迎えです」
飯の支度も済んでますよ〜と笑う青島。
未だにちょっと呆けている室井に、首を傾げた。
「室井さん?」
「あ、ああ・・・」
覗き込まれるようにして、ようやく青島本人だと実感がわく。
「ありがとう。迎えに来てくれて」
「ええ!さ、行きましょうか〜」
「ああ」
歩き出した青島に一歩遅れる形で歩き出す。
目の前で風に煽られる緑のコート。
室井は何となく、微笑んだ。
「室井さん?」
一歩後を着いてくる室井が気になったのだろう。
青島が不思議そうに振り返る。
「どうかしました?・・・何か、笑ってます?」
何やら一人楽しそうな室井に、青島はちょっと怪訝そうだ。
「いや・・・ただ」
「ただ?」
「そのコートは君が一番似合うな、と思っただけだ」
室井が笑いながら言うと、青島は目を丸くした。
そして、室井と自分のコートを交互に見る。
「珍しい」
「うん?」
「いや、凄い不評だから。このコート」
褒められたことが余程意外だったのか、驚いた顔で首を傾げている。
室井は苦笑した。
「君らしくて、俺は好きだ」
そう言うと、青島は一瞬の間を置いてから破顔した。
「さすが、室井さん!俺のことわかってる!」
ポケットに手を入れたまま嬉しそうに笑う青島を見て、室井はやっぱり青島が一番似合うと思った。
END
私が送りつけた駄文に、宗助様が素敵なイラストをつけてくださいましたv
どうですか〜素敵でしょうぉ〜。
送りつけてみるものです!(ご迷惑だからお止めなさい)
青島コートを気にする室井さん。
絵で表現するのって難しいと思うのですよ。
それが、宗助様の手に掛かったら・・・。
絵の才能がないので(いや、文才もないですが;)、本当に尊敬してしまいます。
宗助様、ありがとうございました!