■ 夏祭り 改


「祭りの後にいっぱいしましょうね」

青島に笑顔でそんなことを言われて、頷くだけで済ませられるほど俺はまだ老いてはいなかった。

微笑む青島の唇を奪う。
求める俺に応えて青島の舌が絡む。
腰に廻した腕で尚も抱き寄せると、青島の手が浴衣の肩口をぎゅっと握った。

来年なんか待てるか。

こんなに無防備な青島を前にして離れられるわけがなかった。

腕の下に深く肩を潜らせて腰を抱き、身体ごとこちらに向き直させる。
触れ合った腿がもどかしげにユラユラと揺れている。
本能に従って手を忍ばせると、青島の浴衣のすそが大きく肌蹴ていた。
滑らかな肌触りは太ももの内側。
膝元から奥へと手のひらを這わせると、恥ずかしいげに逆の腿が侵入を阻止しようと挟み込んでくる。
動かない手首をそのままに指先だけを滑らす。
敏感に反応した身体は侵入者への防御に甘くなり、巻きつく腕が力を増すとキスが激しくなる。

辛抱堪らなく青島を自分の上へ導こうとしたら、青島が両腕を突っ張った。

「待って」
肩で息をしながら潤んだ瞳が懇願に揺れる。
「待てない」
青島だって限界のはずだ。
「室井さん」
だけど、縋るような青島の視線は無視できない。
「・・・イヤか?」

慌てて顔をふるふると振る。
「違います」
なら。
「なんだ?」
「ちょっと複雑というか・・・」
「・・・複雑?」
「ほら。あの。なんとなく見られてるみたいで恥ずかしいといいますか。あの・・・」
「はずかしい・・・」
青島が俺の浴衣の袖をつまんだ。
「これ。親父のだったから・・・」

俺の大ばか者!!
「すまない!」(ガン!)
自分の馬鹿さ加減に居たたまれず青島に頭を下げたら、そのまま尻が滑ってサッシの枠に腰をぶっつけた。
衝撃は感じたが痛みはない。
「本当に。すまない!」
馬鹿者!馬鹿者!大馬鹿者!!
謝ってすむ問題じゃない!
青島の大事な家族の思い出を。
俺が汚していいわけがない!
俺は大馬鹿者だ!

「やだな!そんなに謝んないでくださいよ!ちょっと恥ずかしかっただけですって」
青島に。
青島の父上に合わせる顔がない。
情けない。己の未熟さに拳を握り奥歯をかみ締める。
こんな人間は青島の愛に相応しくない。
「すまなかった。浴衣はクリーニングして返すから」
俺は情けなくも逃げ帰ろうとした。
「室井さん!」
青島の手が背を向けた俺の手を掴む。
思わず後ろを振り返る。
半分寝転がるように俺に手を伸ばす青島の浴衣が乱れて、腕や腿、胸元が露わになっていた。
罪悪感のようなもやが全身を支配しているのに、視線だけが裏切って青島の肌を見てしまう。
「あ」
無意識にゴクリと唾を呑んだ俺に、青島が慌てて手を離した。

冷水を浴びたようだった。
いつからこんなに破廉恥な頭になってしまったのか。
青島の父上にも申し訳なく思ったが、何より青島に申し訳がたたなかった。
「すまない!」
顔を見れなくて踵を返す。
「行かないで!」
青島の声に反射的に立ち止まる。

「俺イヤだったわけじゃないんです。室井さんとするのイヤなわけないじゃないですか。本当にただちょっとだ

け恥ずかしい感じがしただけで。・・室井さん」
青島。
「室井さん。こっち向いてください」
青島。それは無理だ。
「お願いです室井さん。俺を見て」
青島!
俺はゆっくりと振り返った。

「室井さん。ベッドまで連れてってください」
青島が両腕を広げて俺へと伸ばす。
俺は動けない。
「腰。立たなくなっちゃって」
わかった。それ以上言うな。
もう言わなくていい。
「脚、引っ込めろ」
青島の前に屈んで腕を首に廻させ、サッシを閉めてカーテンも引っ張る。
情けなさも、居た堪れなさもグっと我慢して、青島に謝辞のキスをした。

背中とひざの下にそれぞれの腕を廻し、そのままゆっくりと抱き上げる。
心臓の上に頬を寄せた青島の髪が、サワサワと俺のあごをくすぐった。
ベッドの中央にゆっくり下ろす。
自分の腰紐を後ろ手に手探りで解き、借りた浴衣を畳んで足元に置いた。

脚を投げ出して座る青島に覆いかぶさり、腰を抱き寄せて押し倒す。
ひざ立ちのまま一旦起き上がり、寝転がる青島を見下ろした。
「青島」
目を閉じて更には顔ごと横を向いてしまった青島に呼びかける。
「青島。俺を見ろ」
まぶたに皺が出来るほどきつくつぶっていた目が開いて、窺うように俺の全身を一瞥する。
全裸の俺にそそり立つ中芯を見たのだろう。
青島が慌てて目を閉じる。
「これなら恥ずかしくないか」
言い終わるか終わらないかのうちに、青島が拳を振り上げた。
手首を掴んでベッドに押し付ける。
「恥ずかしいのか」
「当たり前でしょう!」
耳が紅い。
それでも。
その恥ずかしさは俺の身体に対するもので、お父上の浴衣のせいじゃない。
恋する相手だけに見せる恥じらいで、家族に対する照れじゃない。
愛しいと痛烈に思った。
俺を意識する青島を愛しいと。今更ながらに。

大人しくなった青島の襟を両手で掴み、ゆっくり左右に開かせた。
目を閉じたままの青島はわずかに喉を仰け反らせ、切なげに眉頭を寄せている。

腰が立たなくなったなど。青島に言わせるべきではなかった。
分かっている。
あれは方便だ。
俺を帰らせないためだ。
青島。君の愛情の深さに額づく思いだ。
それに甘んじてしまう俺を許してくれ。

俺は許しを請うように、青島の喉下に唇を寄せた。
恥らっていた青島の腕が、確かな力で俺の背中を抱いた。
顔を上げて青島を見る。
まだ耳は紅いままだった。










END

瀬尾様


破廉恥!室井さんの破廉恥!!
頂いた時に、心の中で絶叫した逸品でございます(笑)
瀬尾さんから、喫茶店室青「夏祭り」の続きを頂きましたvいえ〜い。

青島君が可愛いのは言うまでもないですが、
後悔して「大馬鹿者!」と自分を罵る室井さんも可愛かったです。
それだけ、青島君が大事で大好きなんですよね〜v
私も大好き〜v(聞いてない)
ラブラブでありつつ、相手を思いやる二人がいて、二人とも愛しいです。

瀬尾さん、ありがとうございました!



template : A Moveable Feast