■ 掻き乱す(褒めて?の夜の出来事)


――その日の夜。

青島が送ったメールでひと悶着あったものの、
‘打ち間違い’という結論に辿り着き、一応の決着はついた。


二人で晩酌の用意をし、酒とつまみをテーブルの上に並べる。
そして向かい合って座り込み「乾杯!」と杯を合わせた。

開署式で会えたと言っても、恋人としての再会は約1ヶ月ぶり。
ビールがこの上なく旨い。

お互いに一気に飲み干すと、同じタイミングで一息つく。
二人の視線が絡みあい、微笑み合う。
それぞれの顔は、穏やかな幸福感をのせていた。

青島は自分の横に置いてあった、新しいビールを差し出す。
室井はそれを、礼を言い受け取る。
青島と目が合ったとき、何かを思い出したかのような表情を浮かべた。

「そういえば・・・君はなんで、あの時あんなことを言ったんだ?」

「あの時?あんなこと?」

青島は室井が言わんとしていることが思い出せず、首を傾ける。
それを見て何故か言い難そうに、室井は続けた。

「・・・湾岸署の開署式の後、聞いてきただろう?」

開署式・・・。
その時の事を反芻して、青島はやっと合点がいく。
思い出した。
室井が車に乗り込もうとした時だ。

「あ〜!あれですか!!・・・あれ?もしかして・・気にしてました?」

青島は思い出したことで、勢いよく話す。
が、室井がギロっと睨むような視線をよこすため、段々と語尾が弱くなった。

これは・・・どうみても、機嫌が悪い。

思わず固まる青島に、室井は気まずそうに視線を外した。
青島が渡したビールの蓋を開け、缶のまま煽る。

「・・・室井さん?」

青島は恐る恐る名を呼ぶ。
そんな青島にチラッと視線を向けた。

恐らく室井の目には、困った表情の青島が映ったのだろう。

室井は大きく息を吐き出した。
深呼吸なのか、ため息なのか微妙なところだ。

「・・あんな顔で、楽しいっすか?って聞かれたら、気になるに決まってる。」

そう言われ、あの時どんな顔してたっけ?と胸中で考える。
だが自分の顔は、なんとなくしか思い出せない。

けれどあの時の感情ならちゃんと覚えている。
それを思い出し、青島はゆっくりと微笑んだ。

「・・・久しぶりだったからね。」

「・・・?」

青島の言葉が分からなかったらしい。
室井から、訝しげな視線が向けられる。

それを受けて、青島は困ったように笑った。

おもむろに、膝歩きで移動を開始する。
困惑し、明らかに狼狽している室井の横へ有無を言わさず腰を下ろし、
そのまま青島は身を乗り出して、室井を覗き込んだ。

あまりの至近距離から急に見つめられ、室井は一瞬、息を詰めた。

室井が停止していると、青島は本当に嬉しそうな笑顔を向ける。

「だーかーらっ、久しぶりに仕事中の室井さんに会えたじゃないですか。
 室井さん、偉くなっちゃったもんだから、いま職場じゃ全然会えないんでしょ?」

「・・・それはそうだが。」

「仕事してる室井さん、やっぱりかっこいいなぁと思ったら、
 ちょっと困らせてみたくなったんです。」

眉間の皺が三割り増しって言うのかな?
笑いながらそんなことを続けて言う。

「・・・なんだ、それは。」

青島の「かっこいい」発言に、室井は動揺し表情がこわばる。
照れているのだ。

青島は室井さんかわいいなぁと内心思いながら、益々楽しげに続けた。

「だって俺だけドキドキするの、なんかくやしいし。
 それに政治が仕事なんて言うから、まぁちょっと嫌味もこめたけどね。」

「・・・青島。」

青島の言葉で、また顔を強張らせる室井。

そんな室井を、じっと大きな目で見つめる。
そして青島はゆっくりと細めていった。

「・・・でもね。
 結局は室井さんの仕事が、楽しいといいなって思っただけかも。
 それだけかもしんないです。」

まぁ警官の仕事が楽しいって言うのも不謹慎なんですけどね、
と困ったように笑いながら付け加えた。

室井に向けられる、屈託のない笑み。

その笑みを見て、室井の中で恋情があふれ出す。

胸が熱い。
熱くて、切ないぐらいだ。

その感情の赴くまま、手を伸ばす。
全てを奪うようにかき抱く。
優しくも気遣いも全くない抱擁。

だが室井の腕の中で、青島は嬉しそうな笑い声をあげた。
全面的な幸福と、敗北感を感じながら室井は苦しげに口を開く。

「・・君の言葉はいつも俺の心をかき乱す。」

「・・すみません。」

謝る青島の言葉には、笑い声が乗っていた。

「謝らないでくれ。・・・青島。」

「・・・はい?」

「・・・ありがとう。」

「いーえ。だって、あんたは俺が惚れ抜いてる警官だからね。
 
 そうだ!俺も気になってたことがあるんですよ!
 室井さん車の中で、・・んっ!!」

青島の言葉を途中で遮るように、室井は青島の唇を塞いだ。
そのまま深く求める。

我慢できないし、我慢する必要も無い。
室井はそんな心境だった。

恋人に「惚れ抜いている」なんて言われて、収まるはずがないのだ。


一方の青島は一瞬驚いたように目を見開いた。
だがその後、目を細めて嫣然と笑み、室井を求め返してきてくれる。


その色気は何たることか。

訂正。
青島の全てに、かき乱される。

――― 室井は心の中で、そう呟いた。










END

みい様


あとがき

こんな捏造しか思い浮かばず・・・平謝りでございます;; 

                                      みい様


「褒めて?」のその夜のお話を頂きました!
あのラストの愛し可愛い(?)青島君の「楽しいっすか?」が
室井さんをちょっと困らせたいがための嫌味かと思うと可愛い〜v
何気にとても好きな一言が「惚れぬいてる警官」でした。
恋人だけど、警察官としても惚れぬいてるんですよね。
室青の根本ってそこにあるんじゃないかなって思います。
可愛い青島君をありがとうございました!


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