■ 褒めて?


湾岸署から新湾岸署へ移転して、早1週間。

当直を終わらせた今、青島はやっと非番を迎えることができた。


重たい体を休める為に向かった場所、
それは自宅ではなかった。
そこは、勝手知ったる恋人の家。
家主の不在にお構いなしで、青島は合鍵を使い上がりこむ。

室内を歩く足元はふらふら。
足と足が絡み合い、もつれそうになるのをなんとか回避し歩く。

リビングのソファを目の前に捉えた時。
―― ばたっ!!
青島は自分の体を放棄するように、勢いよくソファに倒れこんだ。


この一週間。

青島にとって本当に修羅場だったのだ。

風邪が入った体を、薬と栄養ドリンクでひたすらごまかし宥め、
引越し対策本部長としての残務処理と報告を、元・サラリーマン魂で完遂し、
係長としての割り振りを、土壇場の判断力で決断し、
時間が過ぎるごとに増え続ける事件を、仲間と共に沈静化する。

そんな風に自分に課せられた仕事を終わらせてきた。


実は、数枚の報告書が未だ残っているのが、それはそれ。

あの課長のことだ。
どうせ気付かないだろうと高をくくり、「終了〜!!」と宣言したのが今朝のことだった。


そんなことを思い出し、つくづく思うのだ。

自分自身を褒めてあげたい。
・・・いや。
それ以上に、誰かに褒めてもらいたい。

ふと、そんなことを思い始める。
まるで子供だ、と苦笑するが気持ちはどんどん育つばかり。

そして、褒めてほしい相手は決まっているのだ。
青島にとって、ただ一人の相手。

その顔が思い出されると、青島の欲求は止らなくなってきた。
きっと疲労で、理性もうまく働く気がないのだ。

たった数時間の我慢ですら、できやしない。

今、甘えたいし、褒めてほしい。
そう思い詰めると、いてもたっても居られなくなってきた。


潔くよく、自分の欲望を満たすためだけに行動を開始する。


青島はうつぶせのままポケットに手を入れ、携帯を探し始める。
ポケットからは、余分な物がたくさん出る。
それらを床に転がしながら、ようやく携帯を探し当てた。

一瞬、電話をしようかと思うが、多分繋がらないと思いなおす。
青島の望む相手は、会議や視察やらが立て込んでいるのだ。

すっかり偉くなっちゃたからねぇ、
そんなことを思いながら、メールの操作を始める。
ボタンを押していると段々、画面がぼやけてくる。
瞼は重いし、涙が零れ始める。あくびも止らない。

・・・限界。
そんな眠さを必死に堪えて、短いメールを送信した。

送信ボタンを押すと、エネルギー切れ。
もう意識半分、眠りの中にいる状態だった。


メールを見た恋人は、どんな反応なんだろう?
そう考えるだけで幸せになるから、手に負えない。


「ほめ・て・・・室井さん・・。」


どうせ現実の世界では、まだ会えない。
なら夢の世界だったら・・・。


そんなことを思いながら青島は夢の世界へと落ちていく。

その頬には満足そうな笑みが浮かんでいた。


***


「・・!!?」

会議が終わり、メールを見た室井は絶句した。
後ろから「審議官?」と部下から訝しげな声が掛かるが、反応できない。
というより、部下の存在は眼中から消え去った。

どういうことだ!??
なんかあったのか?

短いメールを凝視したまま、固まる。
室井の背中には確かに冷たい汗が流れた。
眉間の皺も益々深まる。


長い付き合いになる相手からのメール。
彼からの連絡は、仕事中であっても嬉しい。

・・・だが。
このメールは・・・。
室井は唸りそうになるのを、必死に歯を喰いしばって耐えた。

今までに、こんな内容のメールは来たことがない。
それだけに室井の中で、嫌な想像がどんどん湧き起こってくる。

何かが起きているとしか思えない。

下手をすれば卒倒しそうになるほど、室井は追い込まれていた。

と、とりあえず冷静になろう。
まるで自分に暗示をかけるように、何度も何度もその言葉を心の中で繰り返す。

冷静に、冷静に・・・


そんな室井の手に、握られたままの携帯。

そこには青島からのメールが表示されていた。


たった三文字。



『なめて』


***

―――その後、


必死に連絡を取ろうとする室井に反し、
青島は、久しぶりの安眠を堪能していた。


自分の自宅で青島を見つけるまで、
連絡がつかないままだった室井は、発狂寸前だったという。










END

みい様


あとがき

・・・もう、何と言っていいのか(汗;)
本当に、ちょっと!ちょびっとだけ!でも楽しんで頂ければシアワセです。

                                          みい様


みい様から、素敵室青を三本も頂いちゃいましたv
疲れきってる青島君の可愛いこと可愛いこと!
「なめて」(笑)
室井さんは大慌てだったかと思いますが、笑っちゃいました〜(^^)
みい様、ありがとうございました!



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