クリスマス・ケーキ



 渡された箱の重みを両手で感じながら、上目遣いでチラリと睨んだ。
 本当はあっちの三段重ねのほうがよかった。
 そう言うと、だったら取り替えてくればいいだろう、と簡単に言ってくれたので、そうじゃないって、と噛み付いてやった。
「そうじゃなくって初めっから三段重ねがよかったんだって」
 お前の言っている意味がよくわからないな、とうっすら笑う顔にそっちこそわかってない、と不機嫌になって言うと、どうしたんだ、と今度は少し心配そうな声で聞いてきた。
「何が気に入らない、わかるように言ってくれ」
 困ったな、と言っているあんたは普段会議室で見るあんたと違って、なんとなく柔らかくてなんとなく、情けない。自分じゃ知らないんだろうけど。
 そんなあんたを見ることが出来るのは自分だけだとわかっているから時々意地悪がしたくなる。
 なんて、絶対言わない。
 そのかわり、まだ怒った顔で腕を組んで、あんたの前に立ちはだかった。
「だってさ、これじゃ指で掬ったって全然柔らかくないしさ」
「指で掬う?」
「そう、しない?」
 ここでクスンと笑う、見られてるのは計算済みだ。
 案の定、驚いた顔の真ん中ででっかい目が見開いて、途端に赤くなりだした耳と頬をごまかすためにコホンと一つ咳払いをした。そうして慌ててそらしたその頭の中が何を考えてるのか俺にはわかる。だってその中にあるのは、俺の事だもんね。
 横目で見られているのを解っていながら、その箱を開いていく。
「だからこれじゃなくってあっちのほうがよかったのに」
 そう言って伸ばした指で摘んだのは、上に載っているチョコレート細工。
 ずいぶんと上質のそれは触ったところから溶け出して、口元に持ってくるまでに指を茶色く色づけた。一口の大きさのチョコレートを全て口に含んでしまうと、後はその茶色の指先をあんたの目の前に差し出して、「どうする?」と聞いた。
「どうするって・・・」
「じゃ、いらないんだ」
 すっと指を持ち上げると、手が届かないところまで離れてしまう前にあんたの手に掴まれて、ぎゅっと力を入れられた。
 もしかして、焦ってたりして。
 思わず笑いかけた口元を気づかれないように引き締めた。
「痛いよ」
 それでもあんたは何にも言わないで、自分の口元まで俺の指を持っていこうとするから。
 しょうがなく、指をまっすぐに伸ばしてやった。


 10日ほど前の誕生日にあんたが買ってくれたのは、真っ白いショートケーキだった。でも結局それは口の中に入るよりももっとほかの事に使われるほうが多くて、そのときは散々嫌がったんだけれど。
 それだってそうしたほうが盛り上がるからって、気がつかなかったのかな。
 街中を珍しく並んで歩いていたら急に「ケーキでも買ってやろう」なんていうからさ、てっきりそれを思い出したんだって思ったのに。ショーケースの中から選んだのは、つるりとしたチョコレートがかかったベルギースタイルのクリスマスケーキだった。


 ゆっくりと指を辿る舌の感触に、知らず口元が上がってくる。
 いつもよりしつこいと思うのは、俺が何考えてるのかわからなくって放っておけないから?だったりして。何の心配も要らないのにな、俺の考えてる事なんて、あんたの事以外これっぽっちもないのに。
 でもそれが心配だって言うんなら、教えてなんかやらない。わかんないなら、こうしていつまでも追いかけてくるんだろうからさ。
 もうチョコレートが残っていない指先に、柔らかく当たる舌先にクスリと笑って。
 甘いのは、口の中に広がるチョコレートの味なのか、それとも俺の指のほうなのか。そう聞いたらあんたはなんて答えるんだろう。どっちを答えても、こちらからの返事は決まってるんだけれどね、と考えながら。
 やっと離した唇に、今度は俺からKISSをした。








TEXT : くうりい@マイフェイバリットスウィートハーツ




昨年のクリスマス企画でお世話になったくうりい様から、頂きました!
一昨年のクリスマスに書かれたそうです。

青島君が可愛い。鬼のように可愛い!
確信犯なのだけど、青島君に弄ばれるなら本望です(違うってば)
青島君のことばっかり考えてる室井さん、そしてそれがバレバレな室井さんがいいですよね。
情けない顔で困っている室井さんが好きです。
青島君、大好きなんだもんねーv(それはお前だ)

くうりい様、有り難う御座いました!