お礼の小話(21)〜(24)






(21)





『青島は預かった』

電話に出た途端誘拐犯にそう言われて、室井は眉間に皺を寄せた。

携帯のディスプレイには「一倉」と出ている。

携帯の向こうが騒がしいので、どこかの飲み屋にいるらしかった。

「用事はそれだけか?電話を切るぞ」

『嘘だと思ってるんだな?』

「お前の暇つぶしに付き合ってられるか」

『嫌でも付き合ってもらうぞ』

何やら自信満々に言われて、室井はまさかと思った。

電話の向こうで一倉が電話を誰かに渡している。

『・・・・・・すいません。拉致られちゃいました〜』

青島の声に室井は目を剥いた。

本当に一倉と一緒にいるらしい。

「青島?今どこだ」

『人質の無事は確認できたか?』

返って来たのは一倉の声で、室井は痛む頭を抱えた。

「お前、一体何をしてるんだ」

『心配するな。指一本触れてないから』

「当たり前だ。触っただけで無期懲役にするぞ」

無茶を言う室井に、一倉は声を立てて笑った。

恐らく作戦の成功を喜んでいるのだろう。

『いつもの居酒屋で待ってるぞ30分で来ないと人質の身の安全はないと思え』

室井は溜息を吐いて、コートを掴んだ。





(22)





「・・・・・・」

「・・・ン・・・」

「・・・青島」

「・・・・・・はい?」

「煙草、変えたのか?」

「・・・・・・何すか、いきなり」

「いや・・・」

「試供品、貰ったんですよ。アメスピの買い置き切らしちゃってたから、代わりに吸ってたんです」

「ああ・・・なるほど」

「ていうか、今更ですよ。今日はずっと違うの吸ってたのに」

「・・・・・・今キスして気がついたんだ」

「・・・・・・匂いじゃなくて、味で覚えてるんですか?」

「そうなるな。君に慣らされたんだ」

「人聞き悪い。室井さんが勝手に覚えたんでしょ?」

「それこそ、人聞きが悪い」

「んじゃ、共同作業ってことで」

「・・・・・・(それならいいか)」

「それより、室井さん」

「ん?」

「続き、しません?」

「もちろん」





(23)





微かな物音に、室井は重たい瞼を持ち上げた。

寝起きで頭がはっきりしないが、すぐに隣に寝ていたはずの青島がいないことに気が付く。

耳をすますと、パタンとドアが閉まる音がした。

それから、パタパタと素足で歩く足音。

少しすると寝室のドアが開いて、青島が姿を現した。

「寒、寒・・・」

小さく漏らしながら戻ってきた青島は、室井が起きていることに気が付くと微笑んだ。

「おはようございます。あ、起こしちゃいました?」

「おはよう・・・・・・いや、大丈夫だ」

現にこうして起きているのだからだ「大丈夫」という返事もおかしな話だが、

寝ぼけ気味な室井はそれに気が付かなかった。

青島は苦笑して、ベッドにもぐりこんでくる。

「トイレに起きたんですけど、今日凄い冷え込んでますよ」

「そうか・・・」

「ほら」

そう言われて、室井が「ん?」と思っているうちに、

青島が足の裏を室井の脛にペタリとくっつけてきた。

フローリングを素足で歩いているうちに冷えたのだろう。

かなりの冷たさに室井が一瞬息を飲み込むと、青島が可笑しそうに笑った。

「目、覚めるでしょ?」

イタズラが成功した子供のような目をしている青島に、室井は苦笑した。

そして、腕を伸ばして青島の体を抱きこむ。

「ああ、目が覚めた」

「室井さん?」

「折角の休みなんだ。二度寝しよう」

「目、覚めたんじゃなかったの?」

「だからもう一度寝るんだ。改めて」

結局あまり目は覚めていないらしい。

室井は青島を抱きしめたまま目を閉じる。

「・・・なるほど」

青島は笑いながら、室井の背を抱き返した。

「室井さん」

「・・・ん?」

「起きたらキスしましょうね」

「・・・・・・ん」

それなら、今すぐにでも。

そう思いながら、室井は再び眠りに落ちた。





(24)





「子供が出来ました」

「誰に?」

「俺に、です」

「・・・君に子供!?・・・浮気したのか・・・」

「なっ・・・酷いですよっ、室井さんっ!」

「は?」

「室井さんの子に、決まってるじゃないか!」

「!!??」

「俺、アンタとしか寝てないのに・・・っ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。妊娠したのは、誰だ?」

「・・・?だから、俺だって言ってるじゃないですか」

「!!!???」

「迷惑ですよね・・・やっぱり」

「はっ?い、いやいや迷惑とか、そういう話じゃなくて・・・男の君がどうして妊娠なんて出来るんだ?」

「何時代錯誤なこと言ってるんですか。今は男も子供を生む時代ですよ」

「そう、だったか?」

「そうです」

「そうか・・・随分進歩してるんだな」

「・・・・・・そうですよね。俺と室井さんじゃ身分が違うし、俺なんか嫁に貰ってくれるはずないですよね」

「バカなこと言うな!」

「・・・室井さん?」

「嫁に貰っていいのか?」

「貰ってくれるの?」

「返せといわれても返さない」

「室井さん・・・嬉しいです・・・」

「三人で幸せになろう」

「はいっ」



ひしっと青島を抱きしめたところで、室井は目を覚ました。

そして、全力で脱力する。

―なんていう夢を見てるんだ、俺は・・・。

男の青島が妊娠するわけもない。

「・・・一体、どんな時代だ」

今更ながら、夢の中の青島の台詞に突っ込みをいれる。

隣をちらりと見れば、青島が気持ち良さそうに熟睡していた。

思わず青島の腹に手を伸ばしそうになって、室井は慌てて手を止める。

自分に呆れながら苦笑して、腹に触れる代わりに青島を抱きしめた。

目が覚めたら青島に夢の話をしよう。

そう思いながら目を閉じた。

笑うか怒るか呆れるか。

青島の色んな表情を想像しながら、室井は再び眠りに落ちた。









これで、全部です。
お付き合いくださいまして、ありがとうございました!