お礼の小話(11)〜(15)






(11)





「子供作ろう?」

青島は呆れたように言った。

「お前、そう言ってプロポーズしたの?」

心底呆れたように言った。

それがネゴシエーターが言う台詞か。

真下は半べそで頷く。

「ええ。そしたら、雪乃さんに考えさせてくれって言われましたぁ」

「そりゃ、そうだろう。つーか、考えてくれるだけ偉いよ雪乃さん・・・」

俺が女だったら、断るよ。

そう言うと、真下が尚更情けない顔をした。

「だって、素直な気持ちでしょ〜。それがぁ」

「そ、うだろうけど・・・。お前ね・・・」

恋人すっ飛ばして、プロポーズ。

挙句がその台詞じゃあ・・・。

誰が頷くんだ。そんなもん。

青島は思った。

「『子供作ろう』、ダメですかねぇ?先輩」

「ダメだ」

青島が答えるより先に、第三者の声が割り込む。

振り返ると眉間に皺を寄せた室井が。

ぎょっとする二人に構わず、室井は青島の腕を掴んだ。

「失礼する」

「ちょ、ちょっと!室井さん!?」

わめく青島を引きずりながら、退場する室井。

そんなにいけてないかなぁ、僕のプロポーズ・・・」

いけてないことは間違いないが、真下は誤解していた。



誤解しているのは、室井も一緒だが。





(12)





青島にはいくつか癖がある。

人間なら誰でも多かれ少なかれあるはずだが。

室井はその中にどうしても気になる癖があった。

「青島」

「はい?」

冷蔵庫のドアを閉めて、青島が振り返る。

「何故、通りすがりに冷蔵庫を開けるんだ?」

そう尋ねると、数回瞬きを繰り返して、冷蔵庫と室井を見比べた。

青島の癖。

それは、台所に行くと必ず冷蔵庫を開けることだ。

通りかかるたびに開けて中を確かめる。

用事はないらしく、何も取らずに閉めることが多い。

「何故って・・・、何ででしょうね?」

青島も首を捻る。

自分でも分からないらしい。

癖とは無意識にでるものだから、それも当然かもしれない。

「電気の無駄遣いになるそうだから、止めた方が良いらしいぞ」

「そうなんですか?でもほら」

「ん?」

「冷蔵庫の中って気になりません?」

「自分で買ったものしか入ってないだろう」

「そりゃ、そうですけど。何か掘り出しもんがないかと思って」

「・・・冷蔵庫の中の掘り出しものは、危険だから口にしないでくれ」

買った本人が忘れているようなもの。

そんなものを見つけて喜ばないで欲しい室井だった。





(13)





パチパチ・・・。

「・・・青島」

「はい?」

「この花火、いつのだ?」

「去年のですけど」

「通りですぐに落ちるわけだ」

「湿気っちゃってますね。やっぱりダメか」

パチパチパチ・・・。

「あ、これちょっと持つかも」

「これか?」

「そうです。火、どうぞ」

「ありがとう。・・・ああ、本当だ。ちょっと持つな」

「ね?」

パチ。

「あ、すごい」

「本当だな」

「一瞬で落ちますね」

「線香花火は湿気りやすいのだろうか」

「そういえば、線香花火と名乗るなら、煙が出るだけの花火の方が正しくありません?」

「・・・それじゃあ、線香そのものになっちゃうだろう」

「あ、そっか」




「どうでもいいが」

「はい?」

「いい歳の男二人が暗がりで火遊びなんかしてたら、通報されないか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫じゃないですか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・ならいいが」

「なんだったら、」

「うん?」

「『暗がりでいちゃいちゃするカップル』を演出してみますか?」

「・・・・・・更に、通報されそうな気がするが」





(14)





隣で寝ていた青島が勢い良く飛び起きたので、

室井も驚いて目を覚ました。

「ど、どうした?」

呆然とした青島が数度瞬きを繰り返す。

それから室井を見て、半泣きになった。

室井はぎょっとして眠気がいっぺんに吹き飛ぶ。

「あ、あおしま?」

「室井さん、酷いです」

「何が?」

「それは俺のシュークリームで、室井さんのプリンじゃありません」

「・・・・・・・・・は?」

目が点になった室井に、青島は抱きついてきた。

「もう室井さんは食べたじゃないですか、メロンパン!

どうしてインドカレーまで食べたがるんですか!」

「・・・・・・おい」

「それ以上食べたら・・・」

「青島?」

「カニが入りませんよ・・・・・・」

なんと青島はそれだけ言うと、室井にしがみ付いたまま再び眠りだした。

室井はそのまましばらく呆然として、溜息を付いた。

「・・・君は一体なんの夢を見てるんだ」

しがみ付かれたまま身体を横にして、青島の頭を撫ぜてやる。

「恩田刑事じゃあるまいし、そんなに食えるか」

何気に失礼なことを呟いて、苦笑した。





(15)





切羽詰った室井の声で、青島は目を覚ました。

声の主を見ると、眉間に皺を寄せて眠っている。

うなされている室井に驚いて、青島は室井を揺り起こした。

「室井さん?大丈夫ですか?」

目を開けた室井は、青島をぼんやりと見つめる。

それから飛び起きて、青島の両肩を掴んだ。

「む、むろいさん?」

「君はどうしていつもそうなんだっ!俺がどれだけ心配してると思ってるんだ!」

青島は目を丸くしながらも、室井が夢の中でまで自分の身を案じてくれているのかと思い

申し訳なくも、少し嬉しくなる。

「室井さん・・・」

「あれほど拾い食いはするなと言っただろう!」

いや、さすがにそこまで低レベルな注意を受けたことはない。

青島はぎょっとする。

「室井さん?」

「青島」

「は、はい?」

「いいか?混ぜるな危険と書いてあるものは混ぜちゃいけないんだ」

「・・・は?」

「知らない人にはついて行くんじゃない」

「・・・・・・」

「ああ、ほら・・・・・・」

室井は再び目を閉じた。

「そんなに走ると転ぶぞ・・・」

そのまま布団に逆戻りして、眠りについたらしい。

青島はその室井の寝顔を見ながら思う。

―この人は俺をいくつだと思ってるんだ・・・。

憮然としながら、起きたら問いただそうと思う青島だった。