青島は呆れたように言った。
「お前、そう言ってプロポーズしたの?」
心底呆れたように言った。
それがネゴシエーターが言う台詞か。
真下は半べそで頷く。
「ええ。そしたら、雪乃さんに考えさせてくれって言われましたぁ」
「そりゃ、そうだろう。つーか、考えてくれるだけ偉いよ雪乃さん・・・」
俺が女だったら、断るよ。
そう言うと、真下が尚更情けない顔をした。
「だって、素直な気持ちでしょ〜。それがぁ」
「そ、うだろうけど・・・。お前ね・・・」
恋人すっ飛ばして、プロポーズ。
挙句がその台詞じゃあ・・・。
誰が頷くんだ。そんなもん。
青島は思った。
「『子供作ろう』、ダメですかねぇ?先輩」
「ダメだ」
青島が答えるより先に、第三者の声が割り込む。
振り返ると眉間に皺を寄せた室井が。
ぎょっとする二人に構わず、室井は青島の腕を掴んだ。
「失礼する」
「ちょ、ちょっと!室井さん!?」
わめく青島を引きずりながら、退場する室井。
そんなにいけてないかなぁ、僕のプロポーズ・・・」
いけてないことは間違いないが、真下は誤解していた。
誤解しているのは、室井も一緒だが。
(12)
青島にはいくつか癖がある。
人間なら誰でも多かれ少なかれあるはずだが。
室井はその中にどうしても気になる癖があった。
「青島」
「はい?」
冷蔵庫のドアを閉めて、青島が振り返る。
「何故、通りすがりに冷蔵庫を開けるんだ?」
そう尋ねると、数回瞬きを繰り返して、冷蔵庫と室井を見比べた。
青島の癖。
それは、台所に行くと必ず冷蔵庫を開けることだ。
通りかかるたびに開けて中を確かめる。
用事はないらしく、何も取らずに閉めることが多い。
「何故って・・・、何ででしょうね?」
青島も首を捻る。
自分でも分からないらしい。
癖とは無意識にでるものだから、それも当然かもしれない。
「電気の無駄遣いになるそうだから、止めた方が良いらしいぞ」
「そうなんですか?でもほら」
「ん?」
「冷蔵庫の中って気になりません?」
「自分で買ったものしか入ってないだろう」
「そりゃ、そうですけど。何か掘り出しもんがないかと思って」
「・・・冷蔵庫の中の掘り出しものは、危険だから口にしないでくれ」
買った本人が忘れているようなもの。
そんなものを見つけて喜ばないで欲しい室井だった。
(13)
パチパチ・・・。
「・・・青島」
「はい?」
「この花火、いつのだ?」
「去年のですけど」
「通りですぐに落ちるわけだ」
「湿気っちゃってますね。やっぱりダメか」
パチパチパチ・・・。
「あ、これちょっと持つかも」
「これか?」
「そうです。火、どうぞ」
「ありがとう。・・・ああ、本当だ。ちょっと持つな」
「ね?」
パチ。
「あ、すごい」
「本当だな」
「一瞬で落ちますね」
「線香花火は湿気りやすいのだろうか」
「そういえば、線香花火と名乗るなら、煙が出るだけの花火の方が正しくありません?」
「・・・それじゃあ、線香そのものになっちゃうだろう」
「あ、そっか」
「どうでもいいが」
「はい?」
「いい歳の男二人が暗がりで火遊びなんかしてたら、通報されないか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫じゃないですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ならいいが」
「なんだったら、」
「うん?」
「『暗がりでいちゃいちゃするカップル』を演出してみますか?」
「・・・・・・更に、通報されそうな気がするが」
(14)
隣で寝ていた青島が勢い良く飛び起きたので、
室井も驚いて目を覚ました。
「ど、どうした?」
呆然とした青島が数度瞬きを繰り返す。
それから室井を見て、半泣きになった。
室井はぎょっとして眠気がいっぺんに吹き飛ぶ。
「あ、あおしま?」
「室井さん、酷いです」
「何が?」
「それは俺のシュークリームで、室井さんのプリンじゃありません」
「・・・・・・・・・は?」
目が点になった室井に、青島は抱きついてきた。
「もう室井さんは食べたじゃないですか、メロンパン!
どうしてインドカレーまで食べたがるんですか!」
「・・・・・・おい」
「それ以上食べたら・・・」
「青島?」
「カニが入りませんよ・・・・・・」
なんと青島はそれだけ言うと、室井にしがみ付いたまま再び眠りだした。
室井はそのまましばらく呆然として、溜息を付いた。
「・・・君は一体なんの夢を見てるんだ」
しがみ付かれたまま身体を横にして、青島の頭を撫ぜてやる。
「恩田刑事じゃあるまいし、そんなに食えるか」
何気に失礼なことを呟いて、苦笑した。
(15)
切羽詰った室井の声で、青島は目を覚ました。
声の主を見ると、眉間に皺を寄せて眠っている。
うなされている室井に驚いて、青島は室井を揺り起こした。
「室井さん?大丈夫ですか?」
目を開けた室井は、青島をぼんやりと見つめる。
それから飛び起きて、青島の両肩を掴んだ。
「む、むろいさん?」
「君はどうしていつもそうなんだっ!俺がどれだけ心配してると思ってるんだ!」
青島は目を丸くしながらも、室井が夢の中でまで自分の身を案じてくれているのかと思い
申し訳なくも、少し嬉しくなる。
「室井さん・・・」
「あれほど拾い食いはするなと言っただろう!」
いや、さすがにそこまで低レベルな注意を受けたことはない。
青島はぎょっとする。
「室井さん?」
「青島」
「は、はい?」
「いいか?混ぜるな危険と書いてあるものは混ぜちゃいけないんだ」
「・・・は?」
「知らない人にはついて行くんじゃない」
「・・・・・・」
「ああ、ほら・・・・・・」
室井は再び目を閉じた。
「そんなに走ると転ぶぞ・・・」
そのまま布団に逆戻りして、眠りについたらしい。
青島はその室井の寝顔を見ながら思う。
―この人は俺をいくつだと思ってるんだ・・・。
憮然としながら、起きたら問いただそうと思う青島だった。