その手紙を手に室井は少し考え込む。
電話のやり取りは何度もしている。
手紙を送られる覚えが全く無い。
まさか別れ話とかじゃないだろうな。
などと、ちょっと暗いことを考えてから、室井は手紙の封を切った。
手紙を読む。
内容は電話でしているような他愛も無い話。
それから、心強い励ましと柔らかい気遣い。
それだけだ。
筆圧の濃い、大雑把な字。
綺麗とは言い難いが、青島らしい力強い字。
室井はそれを見て小さく微笑む。
何となく、青島がいきなり手紙を寄こした理由が分かる。
電話は良い。
直接本人の声が届く。
だけど電話を切ってしまったら、何も残らない。
手紙は文字が、青島の言葉がそのままの形で残る。
それを、室井はすごく嬉しく思った。
もう一度読み返した手紙を封筒にしまう。
それから室井はデスクに向かった。
青島に返事を書くために。
(7)
この3日間ほど、郵便受けを気にしたときは過去に無かったかもしれない。
郵便受けに入っていた手紙を手に取り、青島は思った。
手紙が送られてくることは滅多にないが、一応送り主を確認する。
お目当ての名前を読んで、青島は一人破顔した。
青島に手紙を書く習慣はないし、室井とやり取りしなければならない理由も無かった。
きっかけは、室井が律儀にも青島にまで送ってきた異動の挨拶状だった。
印刷された定型的な文章の他に、室井の性格を反映した生真面目そうな文字が数行。
ほんの数行だけど、形になって残っている室井の気持ち。
毎日眺めて過ごしているわけではない。
だけど、ふと壁にピンで無造作に貼り付けてあるハガキが目に入ると、
なんとなく幸せな気分になる。
励まされている気になる。
室井もそんな気分になれば良いと思い、手紙を出した。
そして、室井のことだから、きっと返事をくれるはず。
そう思って、この3日間返事を待っていたのだ。
封を切って、ゆっくり目を通す。
2度読み返して、青島は微笑んだ。
(8)
玄関を開けた青島は、驚いた。
室井がいたからではなく、ドアを開けた青島に室井が差し出したものを見て。
「これは?」
受け取りながら尋ねる青島に、室井は眉間に皺を寄せている。
その表情で室井が照れているのを察する。
しかし渡された意味も照れている理由も分からない。
首を傾げている青島に室井はそっけなく言った。
「花屋の前を通りかかったら、店先で売ってた」
「だから買ったんですか?珍しい・・・」
「・・・見たら、君を思い出した」
「!」
手渡されたのは一厘のヒマワリ。
(9)
「ブルーハワイって結局何味なんですかね?」
「は?」
「お祭りで良く見かけたんですけど」
「ああ・・・、カキ氷とかジュースとかの」
「そう。あれって、何味ですか?」
「・・・・・・・・・ブルーハワイ味だろう」
「それが分かんないんですよねぇ」
「・・・・・・」
「ブルーハワイの意味が分からない」
「・・・・・・青いハワイ?」
「いや、それ、意味じゃなくて直訳」
「・・・・・・」
「ハワイの海ってあんな色なんですかね?」
「さあ、行ったことがないから何とも言えないが」
「俺もないです。行ってみたいな、ハワイ」
「・・・・・・(?)」
「ハワイってマカダミアナッツしか売ってないんですかね」
「・・・・・・そんなことはないだろうが」
「海以外に観光するとこあんのかな?」
「おい、話がずれてきてるぞ?」
「あれ?新婚旅行の話をしてるんじゃなかったでしたっけ?」
「!」
「あは。冗談ですよ〜」
(10)
「大きくなれよ」
「・・・・・・」
「元気に育つんだぞ」
「・・・・・・青島」
「はい?」
「何してるんだ?」
「植木に水をあげてるんですけど・・・」
「いや、そういうことじゃなくて。その独り言は」
「ああ、独り言じゃないですよ」
「?」
「植物に話しかけてやると成長が良くなるっていうんですよ」
「・・・まさか」
「実際のところは良く知らないですけどね。そう言われてるらしいですよ」
「なるほど」
「じゃあ、あれか?」
「はい?」
「あまり育つな、って言うと成長が悪くなるんだろうか」
「・・・どうでしょう。でも、」
「ん?」
「成長して欲しくないと思う人なら、植物育てたりしないんじゃないっすかね?」
「・・・それもそうだな」