お礼の小話(6)〜(10)






(6)





美幌署に異動になった室井に、青島から手紙が届いた。

その手紙を手に室井は少し考え込む。

電話のやり取りは何度もしている。

手紙を送られる覚えが全く無い。

まさか別れ話とかじゃないだろうな。

などと、ちょっと暗いことを考えてから、室井は手紙の封を切った。

手紙を読む。

内容は電話でしているような他愛も無い話。

それから、心強い励ましと柔らかい気遣い。

それだけだ。

筆圧の濃い、大雑把な字。

綺麗とは言い難いが、青島らしい力強い字。

室井はそれを見て小さく微笑む。

何となく、青島がいきなり手紙を寄こした理由が分かる。

電話は良い。

直接本人の声が届く。

だけど電話を切ってしまったら、何も残らない。

手紙は文字が、青島の言葉がそのままの形で残る。

それを、室井はすごく嬉しく思った。



もう一度読み返した手紙を封筒にしまう。

それから室井はデスクに向かった。

青島に返事を書くために。





(7)





この3日間ほど、郵便受けを気にしたときは過去に無かったかもしれない。

郵便受けに入っていた手紙を手に取り、青島は思った。

手紙が送られてくることは滅多にないが、一応送り主を確認する。

お目当ての名前を読んで、青島は一人破顔した。

北海道の室井に手紙を出したのは5日前。

青島に手紙を書く習慣はないし、室井とやり取りしなければならない理由も無かった。

きっかけは、室井が律儀にも青島にまで送ってきた異動の挨拶状だった。

印刷された定型的な文章の他に、室井の性格を反映した生真面目そうな文字が数行。

ほんの数行だけど、形になって残っている室井の気持ち。

毎日眺めて過ごしているわけではない。

だけど、ふと壁にピンで無造作に貼り付けてあるハガキが目に入ると、

なんとなく幸せな気分になる。

励まされている気になる。

室井もそんな気分になれば良いと思い、手紙を出した。

そして、室井のことだから、きっと返事をくれるはず。

そう思って、この3日間返事を待っていたのだ。



封を切って、ゆっくり目を通す。

2度読み返して、青島は微笑んだ。





(8)





玄関を開けた青島は、驚いた。

室井がいたからではなく、ドアを開けた青島に室井が差し出したものを見て。

「これは?」

受け取りながら尋ねる青島に、室井は眉間に皺を寄せている。

その表情で室井が照れているのを察する。

しかし渡された意味も照れている理由も分からない。

首を傾げている青島に室井はそっけなく言った。

「花屋の前を通りかかったら、店先で売ってた」

「だから買ったんですか?珍しい・・・」

「・・・見たら、君を思い出した」

「!」


手渡されたのは一厘のヒマワリ。





(9)





「ブルーハワイって結局何味なんですかね?」

「は?」

「お祭りで良く見かけたんですけど」

「ああ・・・、カキ氷とかジュースとかの」

「そう。あれって、何味ですか?」

「・・・・・・・・・ブルーハワイ味だろう」

「それが分かんないんですよねぇ」

「・・・・・・」

「ブルーハワイの意味が分からない」

「・・・・・・青いハワイ?」

「いや、それ、意味じゃなくて直訳」

「・・・・・・」

「ハワイの海ってあんな色なんですかね?」

「さあ、行ったことがないから何とも言えないが」

「俺もないです。行ってみたいな、ハワイ」

「・・・・・・(?)」

「ハワイってマカダミアナッツしか売ってないんですかね」

「・・・・・・そんなことはないだろうが」

「海以外に観光するとこあんのかな?」

「おい、話がずれてきてるぞ?」

「あれ?新婚旅行の話をしてるんじゃなかったでしたっけ?」

「!」

「あは。冗談ですよ〜」





(10)





「大きくなれよ」

「・・・・・・」

「元気に育つんだぞ」

「・・・・・・青島」

「はい?」

「何してるんだ?」

「植木に水をあげてるんですけど・・・」

「いや、そういうことじゃなくて。その独り言は」

「ああ、独り言じゃないですよ」

「?」

「植物に話しかけてやると成長が良くなるっていうんですよ」

「・・・まさか」

「実際のところは良く知らないですけどね。そう言われてるらしいですよ」

「なるほど」



「じゃあ、あれか?」

「はい?」

「あまり育つな、って言うと成長が悪くなるんだろうか」

「・・・どうでしょう。でも、」

「ん?」

「成長して欲しくないと思う人なら、植物育てたりしないんじゃないっすかね?」

「・・・それもそうだな」