お礼の小話(1)〜(5)






(1)





「ビール飲もう」

「チーズあったかな?」

「あ、風呂の水出しっぱなしだ」

「便所、便所っと〜」

「はいはい。今出ますよ〜。・・・・・・・・・もしもし?」




「青島・・・」

「はい?」

電話を切った青島に、室井が躊躇いながら声を掛ける。

「君はいつもそんなに独り言を言うのか?」

上記セリフは、みんな青島が一人つぶやいたセリフだ。

青島宅に遊びに来ていた室井に対して言ったセリフではない。

「ええ、そうっすね。結構言いますよ、独り言」

一人暮らししてると出ません?

逆に聞き返されて考えてみるが、室井は独り言を言った覚えが無い。

「無意識にならもしかしたら多少あるかもしれないが・・・」

青島みたいにポンポン言うことはまずない。

元からベラベラ喋る性質じゃないので、当然といえば当然だが。

「うるさかったです?」

「いや、そんなことは無いが。いつもそうなのかと思っただけだ」

「気になるなら注意しますよ?」

「だから、そういうわけじゃ・・・」

「でも・・・」

「だから」

粘る青島に、室井が気まずそうに呟いた。

「一人で喋るくらいなら俺に言え、と思っただけだ」








(2)

紛失しました・・・。





(3)





「青島君」

「なんすか?課長」

「青島君、潜入調査得意だったね」

「ええ、任せてください!」

「そうかそうか。じゃあ、君にぴったりの事件だ」

「はい!・・・で、どこに潜入するんですか?」

「ゲイバー」

「・・・・・・は?」

「明日からよろしくね」

「ちょ、ちょっと、待っ!」

「うるさいね、なによ」

「な、何で俺なんですか!」

「若いから」

「緒方君とか森下君の方が若いでしょう!」

「少しでも見目が良い方がいいでしょう」

「そ、そんな」

「やるって言ったの君でしょ」

「でも!」





「諦めなさいよ、青島くーん」

いつの間にかにじり寄ってきたすみれがにやにや笑っている。

明らかに楽しんでいる顔だ。

「・・・・・・人事だと思って」

「人事だも〜ん。・・・室井さんに話したら面白いことになりそうねぇ」

すみれの一言で青島は顔色をなくした。

「ちょっと!すみれさん!」

「うふふふふふ」

妙な笑い声をあげて立ち去るすみれに、青島はすでに袴田どころじゃない。

すみれの後を追いかけていく青島を見送って、袴田は首を捻った。

「なんで、そこで室井管理官が出てくるのよ・・・?」





(4)





「苺、貰ったの〜。美味しいから、食べない?」

喫煙所で雑談をしていた青島と室井は、すみれの登場に驚いた。

登場に驚いたのではなく、すみれが食べ物のお裾分けに来たことに驚いたのだが。

それを悟って、すみれは膨れる。

「なによぉ?失礼な人たちねぇ。人が折角・・・」

「いや、だってほら、ねぇ?」

焦り気味の青島が室井に振るが、室井に上手い切り替えしが出来るわけが無い。

「あ、ああ、・・・ちょっと驚いただけだ」

「それが、失礼だって言ってるのよ?室井さん」

ビシッと言い返されて、室井は眉間に皺を寄せるが続く言葉は無い。

「まぁ、いいじゃないの。・・・苺、食べていいの?」

苺に話を戻すと、すみれはニッコリ笑った。

・・・すみれの思考回路はどこを通っても食べ物に通じているのかもしれないと、

青島と室井は思った。

「うん、いっぱいあるから〜」

そう言って、皿に盛った苺を自分で摘まんでいる。

「あ、そう。じゃあ・・・、室井さん」

「ああ、ありがとう」

青島も室井に勧めてから、自分も食べる。

独特の酸味が口に広がると、青島は少し眉を顰めた。

「すみれさん・・・。美味しいけど、すっぱいよ、この苺」

青島が横を向けば、室井も眉を顰めている。

室井の場合はいつもだが。

「贅沢ね〜。大体、苺はヘタを取って上の部分から食べるべきよ。先の方が甘いんだから」

その方が美味しいのよ、と言うすみれ。

すみれの言う通りではある。

先端の方が甘いのだから、そうやって食べる方が後味も良い。

青島と室井は顔を見合わせて、もう一個摘まむ。

今度はヘタを取ってその部分から口に含む。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

「確かにそうだけど・・・」

「元からすっぱい苺はどう食べてもすっぱいんじゃないか?」

「・・・・・・そうとも言うわね」





(5)





「かっ、わいい〜」

テレビに噛り付いていた青島が声をあげる。

ソファーの上で読書に勤しんでいた室井は、ちらりと青島の方を見やった。

どこのアイドルだ、と半ば嫉妬まじりに思ったことは内緒だ。

ブラウン管に映っていたのは、百獣の王。

の、子供。

「ぬいぐるみみたい・・・」

ライオンの赤ちゃんを見つめながら青島が呟く。

確かに、あれが将来獰猛になるなど、何度見ても思えない。

猫とは全然違うのだが、どことなく猫っぽいしぐさが可愛い。

無防備に腹を出した子ライオンの姿に、青島が締まりの無い顔をする。

室井はそれを見て思わず吹き出した。

それに気づいて、青島が膨れっ面で室井を見上げてくる。

「なんすか」

「いや」

室井がとりあえず笑みを引っ込めると、青島は再びテレビに向かう。

「・・・室井さんも見てくださいよ。可愛いと思いません?」

確かに可愛い。

が、ライオンの子供を見ているよりも、室井には青島を見ている方がずっと面白い。

そんなことを言えば怒られるので言わないが。