■ 鬼
聞き込み調査から戻った青島は、雪乃の机の上に蓋の開いた菓子折りが置いてあるのに気付いた。
誰かのお土産だろうと思われるが、中身は最中だったようで二つだけ残っている。
「あ、丁度いいや。魚住さんも食べます?」
小腹の空いていた青島は、一緒に聞き込みに出ていた魚住にも尋ねてみた。
「お、いいね〜。疲れると甘いもの食べたくなるよね」
残った2個の最中を手にとって、傍にやってくる魚住に一つ手渡してやる。
「それにしても、災難だったね〜」
「全くですよ。駆けつけたらケンカも終わってて、通報者までいないってんだから」
最中を食べながらぼやく青島に、魚住は達観したものだ。
「死人が出なくて良かったじゃないの」
「死人……そりゃ、まあ、そっすけど」
「ああああああああああ!」
「「うわああ」」
呆れ気味だった青島の背後で突然悲鳴が上がって、青島も魚住も慌てて振り返る。
そして固まった。
凄い形相のすみれが立っていたからだ。
「それ、あたしのもなかぁぁぁぁぁ」
瞬間、青島は今ここで死人が出ると思った。
―俺が死ぬ。
すみれの食べ物に対する執着は半端じゃない。
これがすみれの机の上にあった最中なら、青島だって間違っても手を出さなかった。
はっとして横を向くと、魚住は既に逃げ出した後だった。
「きったねぇ〜」
青島は思わず呟いて、恐る恐るすみれを振り返る。
「どいうこと、青島君」
―鬼がいる。
内心思ったが、もちろん口には出さない。
「いや、ごめん!知らなかったんだよ!」
「知らなければ人のもの盗んでいいわけ?それじゃあ、窃盗犯係は何をすればいいのよ!」
もうすっかり青島を泥棒扱いである。
「楽しみにしてたのにィーーー!」
「うわあっ!」
どこまで本気なのか分からないが、それなりの力で首を絞められる青島。
かんべんしてよ〜、と心の中で青島が叫ぶと、心底呆れた声が掛けられた。
「何をしてるんだ、君たちは…」
室井だった。
目を輝かす青島と、室井さえも睨みつけるすみれ。
だが、すぐにすみれは青島を解放して室井に飛びついた。
「室井さん、それ…」
「…ん?ああ。たまにはと思って」
室井が手に持ってた箱を差し出す。
有名ブランド店のケーキの箱だ。
すみれは目を輝かせてにっこり笑うと、室井の手からそれを受け取った。
「ありがとう。室井さん」
「は?あ、ああ…、いや」
いつになく愛想の良いすみれに室井は引き攣る。
今にもスキップしそうな勢いで給湯室に向かうすみれ。
残されたのは呆然とする室井と、軽く咳き込む青島のみだ。
「………何事だ?」
「室井さん」
「な、なんだ。何で涙声なんだ?」
「ありがとう!」
「は?」
「命の恩人だ!」
「お、おい?」
「愛してる!」
「!!?」
END
2004.2.27
あとがき
この二人は付き合ってるんでしょうかね?(お前が聞くな)
室青なのか微妙です;
この場合、すみれさんはもちろん鬼ですが、ある意味青島君も鬼かと。
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